・・・ 道太は何をするともなしに、うかうかと日を送っていたが、お絹とおひろの性格の相違や、時代の懸隔や、今は一つ家にいても、やがてめいめい分裂しなければならない運命にあることも、お絹が今やちょうど生涯の岐路に立っているような事情も、ほぼ呑みこ・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・ここの道理をよく聴きわけて、必らずうかうか短い一生をあだにすごすではないぞよ。これからご文に入るじゃ。子供らも、こらえて睡るではないぞ。よしか。」 林の中は又しいんとなりました。さっきの汽車が、まだ遠くの遠くの方で鳴っています。「爾・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・ 部屋の工合が違うので、ゴロゴロ寝返りを打ちながらうかうかとさそわれ気味で、出て来は来ても、これからたのみに行って、金策をしてもらうべき人達を、今になって、あたふたとさがさなければならなかった。 あの人や、この人や、栄蔵と親しくして・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・「ひっぱりようがこの頃と来ちゃア無茶だもん。うかうか往来も歩けやしねえや」 満州で侵略戦争を開始し、戦争熱をラジオや芝居で煽るようになってから、皮肉なことにカーキ色の癈兵の装で国家のためと女ばかりの家を脅かす新手の押売りが流行り、現・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・搾取者はその専制に対してプロレタリアートが階級的団結の下に立上る、うかうかしちゃいられないんだ。 ――そうだとも。男だって女だってプロレタリアートなら、ボヤボヤ炬燵にもぐって正月してるものはないさ。 ――一九三一年は一つ俺たちの暦で・・・ 宮本百合子 「正月とソヴェト勤労婦人」
・・・時々自分の青春を振り返ってみる時にはそこに自分の歩かなければならなかった道と、いかにも「うかうかしていた」自分の姿とを認めるきりで、とても過ぎ去った歓楽を追慕するような心持ちなどにはなれません。もう少し年を取ったらどうなるかわかりませんが、・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫