・・・ 今まで、授かった、安らかな、快い眠りは、神のやさしい御心で、この世の、最後の眠りを楽しゅうさせ様がために下されたものなのでの、 わしは、久しい間神にお召(をして居たほどに誤たない神の御心を伺う事が出来るのじゃ。第二の若僧は・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・とを繰り返して言うのである。 一体忠利は弥一右衛門の言うことを聴かぬ癖がついている。これはよほど古くからのことで、まだ猪之助といって小姓を勤めていたころも、猪之助が「ご膳を差し上げましょうか」と伺うと、「まだ空腹にはならぬ」と言う。ほか・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・その弟子が窃み聴いてその咒を記えて、道士の留守を伺うて鬼を喚んだ。鬼は現われて水を灑き始めた。而るに弟子は召ぶを知って逐うを知らぬので、満屋皆水なるに至って周章措く所を知らなかったということがある。当時の新聞雑誌はこの弟子であった。予はこれ・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・ 花房に黙って顔を見られて、佐藤は機嫌を伺うように、小声で云った。「なんでございましょう」「腫瘍は腫瘍だが、生理的腫瘍だ」「生理的腫瘍」 と、無意味に繰り返して、佐藤は呆れたような顔をしている。 花房は聴診器を佐藤の・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・それまでに願書を受理しようとも、すまいとも、同役に相談し、上役に伺うこともできる。またよしやその間に情偽があるとしても、相当の手続きをさせるうちには、それを探ることもできよう。とにかく子供を帰そうと、佐佐は考えた。 そこで与力にはこう言・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・そしてさきへ筑紫の方へ往って、お父うさまにお目にかかって、どうしたらいいか伺うのだね。それから佐渡へお母さまのお迎えに往くがいいわ」三郎が立聞きをしたのは、あいにくこの安寿の詞であった。 三郎は弓矢を持って、つと小屋のうちにはいった。・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・機嫌を伺うように云うのである。「それは誰ですか。フランス人ですか。」「いいえ。日本人です。L'Institut Pasteur で為事をしている学生ですが、先生の所へ呼ばれたということを花子に聞いて、望んで通訳をしに来たのです。」・・・ 森鴎外 「花子」
・・・太郎は傍に引き添って、退屈らしい顔もせず、何があっても笑いもせずに、おりおり主人の顔を横から覗いて、機嫌を窺うようにしている。 僕は障子のはずしてある柱に背を倚せ掛けて、敷居の上にしゃがんで、海苔巻の鮓を頬張りながら、外を見ている振をし・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・「さア、それは大変なものらしいのですが、二三日したらお宅へ本人が伺うといってましたから、そのときでも訊いて下さい。」「何んだろう。噂の原子爆弾というやつかな。」「そうでもないらしいです。何んでも、凄い光線らしい話でしたよ。よく私・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫