・・・ あくる日は、ひるすぎまで、床の中でうつらうつらしていた。Kはさきに起きて、廊下の雨戸をいちまいあけた。雨である。 私も起きて、Kと語らず、ひとりで浴場へ降りていった。 ゆうべのことは、ゆうべのこと。ゆうべのことは、ゆうべの・・・ 太宰治 「秋風記」
・・・んの知らせが来ても、私は、からだ工合が悪いから、きょうは起きない、とぶっきらぼうに言い、その日は局でも一ばんいそがしかったようで、最も優秀な働き手の私に寝込まれて実にみんな困った様子でしたが、私は終日うつらうつら眠っていました。伯父への御恩・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・これでまる三日三晩、私はどのような手段をつくしても眠れず、そのくせ、眠たくて、終日うつらうつらしているのだ。このようなときには、私よりも、家人のほうが、まいってしまって、私のからだをお撫で下さい、きっと眠れると思います、と言って声たてて泣い・・・ 太宰治 「めくら草紙」
・・・ 虚栄の子のそのような想念をうつらうつらまとめてみているうちに、私は素晴らしい仲間を見つけた。アントン・ファン・ダイク。彼が二十三歳の折に描いた自画像である。アサヒグラフ所載のものであって、児島喜久雄というひとの解説がついている。「背景・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・その八月二日の午すぎ、わたくしが支那漢時代の石に刻んだ画の説明をうつらうつら写していましたら、給仕がうしろからいきなりわたくしの首すじを突っついて、「所長さんが来いって。」といいました。 わたくしはすこしむっとしてふり返りましたら給・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・そして、月給日など「裏町の小路をのっそりと歩いたり、なんかガスのように下方をはい流れているうつらうつらとして陰惨な楽しみに酔う自身の姿に気がついて、なるほど世に繁茂する思想の生え上った根もとはここなのかと、はっと瞬間目醒めるように眼前の空間・・・ 宮本百合子 「一九三四年度におけるブルジョア文学の動向」
・・・ そして女中が牛乳を銀色に光る器に入れて持って来た時また元の椅子に腰をかけて千世子はうつらうつら寝入りそうな気持になって居た。 軽い夕飯をすましてから千世子は近頃にない真面目な様子でたまって居る手紙の返事や日記をつけた。 その日・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・こんなにえきれない、うつらうつらとした日を光君は毎日送って居る。 毎日きまった事はちゃんちゃんとして行ってもあとは柱にもたれてボンヤリして居たり何かもうどうしても忘られない事をしいてまぎらそうとするように、涙の出るような声で、歌をうたっ・・・ 宮本百合子 「錦木」
出典:青空文庫