・・・あるいはこの話は軍人援護の美談というべきものではないかも知れない。しかし、いま私は「私の見聞した軍人援護朗話」という文章を求められて、この話を書き送ることにした。この十八歳の娘さんのいじらしいばかりに健気な気持については、註釈めいたものは要・・・ 織田作之助 「十八歳の花嫁」
・・・あの時は砲車の援護が任務だった。砲車が泥濘の中に陥って少しも動かぬのを押して押して押し通した。第三聯隊の砲車が先に出て陣地を占領してしまわなければ明日の戦いはできなかったのだ。そして終夜働いて、翌日はあの戦争。敵の砲弾、味方の砲弾がぐんぐん・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・ 四季の題は多く客観的にして、『古今』以後客観的の歌は増加したれど、皆縁語または言語の虚飾を交えて、趣味を深くすることを解せざりしかば、絵画のごとく純客観的なるは極めて少かり。『新古今』は客観的叙述において著く進歩しこの集の特色を成しし・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・ これらの材料は蕪村以前の句に少きのみならず、蕪村以後もまた用いる能わざりき。縁語及び譬喩 蕪村が縁語その他文字上の遊戯を主としたる俳句をつくりしは怪しむべきようなれど、その句の巧妙にして斧鑿の痕を留めず、かつ和歌も・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・参議院の引揚援護委員会も吉村隊事件ではいかがわしい委員会の本質を、人々の前にむきだした。 今日の新聞では西尾末広の偽証罪が不問に附せられるかもしれないことについて、弁護士である人からの投書があった。有名なえらい人の偽証は無罪とされ、一般・・・ 宮本百合子 「「委員会」のうつりかわり」
・・・その方法、この悲劇の社会的な原因を排除するのではなしに、かえってそれを掩護し、不合理の率直な告訴人となれないで、心ならずもそのかかしとしてつかわれながら。 これも一つの日本の悲劇であったと思う。あの事件に関して暴力をきびしく非難したのが・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・場所の何処に拠らず、私を総ての掩護から露出させた圏境に依ります。 嘗て知らない苦労にも会いましょうし、光栄も感じます。その種々相を透して、さながら、プリズムの転廻を見るように、種々雑多な人間性が現われて参ります。 その一色をも逃すま・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
出典:青空文庫