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・・・親たちは、ただぼんやり、甲府市の炎上を眺めている。飛行機の、あの爆音も、もうあまり聞えなくなった。「そろそろ、おしまいでしょうね。」「そうだろう。いや、もうたくさんだ。」「うちも焼けたでしょうね。」「さあ、どうだかな? 残っ・・・
太宰治
「薄明」
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・・・宿業に依って炎上し、神の意志に依って烏有に帰する。人意にて、左右することの、かなわぬものである。そうして、盗難は、――これは火事と較べて、同じ災禍でありながら、あまり宗教的ではない。宗教的どころか、徹頭徹尾、人為的である。けれども、これにも・・・
太宰治
「春の盗賊」