・・・したがって古に拘泥してあらゆる未来の作物にこれらを応用して得たりと思うは誤りである。死したる自然は古今来を通じて同一である。活動せる人間精神の発現は版行で押したようには行かぬ。過去の文学は未来の文学を生む。生まれたものは同じ訳には行かぬ。同・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・元来が鷹揚なたちで、素直に男らしく打ちくつろいでいるようにみえるのが、持って生まれたこの人の得であった。それで自分も妻もはなはだ重吉を好いていた。重吉のほうでも自分らを叔父さん叔母さんと呼んでいた。二 重吉は学校を出たばかり・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・あるときはこの自覚のために驕慢の念を起して、当面の務を怠ったり未来の計を忘れて、落ち付いている割に意気地がなくなる恐れはあるが、成上りものの一生懸命に奮闘する時のように、齷齪とこせつく必要なく鷹揚自若と衆人環視の裡に立って世に処する事の出来・・・ 夏目漱石 「『東洋美術図譜』」
・・・分化作用の発展した今日になると人間観がそう鷹揚ではいけない。彼らの精神作用について微妙な細い割り方をして、しかもその割った部分を明細に描写する手際がなければ時勢に釣り合わない。これだけの眼識のないものが人間を写そうと企てるのは、あたかも色盲・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・芭蕉のこれを詠ずるもの一、二句にして 招提寺若葉して御目の雫ぬぐはゞや 芭蕉 日光あらたふと青葉若葉の日の光 同のごとき、皆季の景物として応用したるに過ぎず。蕪村には直ちに若葉を詠じたるもの十余句あり。皆・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・ 狐は鷹揚に笑いました。「まあそうです。」「お星さまにはどうしてああ赤いのや黄のや緑のやあるんでしょうね。」 狐は又鷹揚に笑って腕を高く組みました。詩集はぷらぷらしましたがなかなかそれで落ちませんでした。「星に橙や青やい・・・ 宮沢賢治 「土神ときつね」
・・・「そこで今の『正直は最良の方便』という格言は、ただ私たちがうそをつかないのがいいというだけではなく、又丁度反対の応用もあるのです。それは人間が私たちに偽をつかないのも又最良の方便です。その一例を挙げますとわなです。わなにはいろいろありま・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・ 校長は鷹揚にめがねを外しました。そしてその武田金一郎という狐の生徒をじっとしばらくの間見てから云いました。「お前があの草わなを運動場にかけるようにみんなに云いつけたんだね。」 武田金一郎はしゃんとして返事しました。「そうで・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・けれども茲ではまず生物連続が面白かったようですからそれを色々応用して見ます。則ち人類から他の哺乳類鳥類爬虫類魚類それから節足動物とか軟体動物とか乃至原生動物それから一転して植物、の細菌類、それから多細胞の羊歯類顕花植物と斯う連続しているから・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・これはみかたによっては、減刑運動を一つのファシズム示威に応用しようとかまえている人々への無取締り通告である。その背後にある思想というのは、五・一五事件、二・二六事件と、暴力で侵略戦争遂行の可能な軍部独裁にまで推進させてきた超国家主義、軍国主・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
出典:青空文庫