・・・「帝釈様の御符を頂いたせいか、今日は熱も下ったしね、この分で行けば癒りそうだから、――美津の叔父さんとか云う人も、やっぱり十二指腸の潰瘍だったけれど、半月ばかりで癒ったと云うしね、そう難病でもなさそうだからね。――」 慎太郎は今にな・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・僕は始から、叔父さんにつれられて、お茶屋へ上ったと云う格だったんだ。 すると、その臂と云うんで、またどっと来たじゃないか。ほかの芸者まで一しょになって、お徳のやつをひやかしたんだ。 ところが、お徳こと福竜のやつが、承知しない。――福・・・ 芥川竜之介 「片恋」
一 僕はふと旧友だった彼のことを思い出した。彼の名前などは言わずとも好い。彼は叔父さんの家を出てから、本郷のある印刷屋の二階の六畳に間借りをしていた。階下の輪転機のまわり出す度にちょうど小蒸汽の船室の・・・ 芥川竜之介 「彼」
・・・「まあそんな調子でね、十二三の中学生でも、N閣下と云いさえすれば、叔父さんのように懐いていたものだ。閣下はお前がたの思うように、決して一介の武弁じゃない。」 少将は楽しそうに話し終ると、また炉の上のレムブラントを眺めた。「あれも・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・米の不作のときは、米の価が騰がるように、くわの葉の価が騰がって、広いくわ圃を所有している、信吉の叔父さんは、大いに喜んでいました。 信吉は、うんと叔父さんの手助けをして、お小使いをもらったら、自分のためでなく、妹になにかほしいものを買っ・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
・・・東京には、まだ顔を知らない叔父さんが住んでいられて、いい奉公口をさがしてくだされたからです。 なつかしい川、森、野原、そして、仲のいいお友だちや、かわいいペスに、白のいる村から、そればかりか、やさしいお母さんと別れなければならぬのは、ど・・・ 小川未明 「真吉とお母さん」
・・・ その人形は、今年の春、田舎から叔父さんが出てこられたときに、叔父さんといっしょに、町へいって買ってもらった、好きな、たいせつにしている人形でありました。 日は、だんだん西の方へまわりましたけれど、まだそこには、暖かな日が当たってい・・・ 小川未明 「なくなった人形」
・・・「明日は叔父さんが来るだ……」おせいはブツブツつぶやきながらも、今日も白いネルの小襦袢を縫っていた。新モスの胴着や綿入れは、やはり同じ下宿人の会社員の奥さんが縫ってくれて、それもできてきて、彼女の膝の前に重ねられてあった。「いったい・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
・・・これがまた真物だったら一本で二千円もするんだが、これは叔父さんさえそう言っていたほどだからむろんだめ。それから崋山、これもどうもだめらしいですね。じつはね、この間町の病院の医者の紹介で、博物館に関係のあるという鑑定家の処へ崋山と木庵を送って・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・』『アハハハハハばかを言ってる、ドラ寝るとしよう、皆さんごゆっくり』と、幸衛門の叔父さん歳よりも早く禿げし頭をなでながら内に入りぬ。『わたしも帰って戦争の夢でも見るかな』と、罪のない若旦那の起ちかかるを止めるように『戦争はまだ永・・・ 国木田独歩 「置土産」
出典:青空文庫