・・・思想上種々なコンフリクトがあったとしても、自分のその有難さ丈は一点の汚辱も受けないのである。 母が、それをすっかり理解し、自分も其点で、希望と信頼とを持って呉れたら、どんなによいだろう。性格の異うこと、何と云っても、彼女は芸術家には生れ・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・度々述べられている通り、ゴーリキイの幼年・少年・青年時代は恐ろしい汚辱との闘争に過ぎた。ゴーリキイの母親ワルワーラは、堂々とした美人であったらしい。夫の死後小さいゴーリキイと祖父の家に暮すようになってからは、どちらかというと自分の感情の流れ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイによって描かれた婦人」
・・・ゴーリキイの若い精神は、社会の汚辱と矛盾に苦しめば苦しむ程激しくよりよい人生の可能を求めた。彼は未来を、これからを、よりましな「何ものかであろう」ところの明日から目を逸すことが出来ない。ゴーリキイは彼等のように生きてしまった人々の一人ではな・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・人格の光にあらず、霊のひらめきにあらず、人生の暁を彩どる東天の色は病毒の汚濁である。 日本民族が頭高くささぐる信条は命を毫毛の軽きに比して君の馬前に討ち死にする「忠君」である。武士道の第一条件、二千五百年の青史はあらゆるページにこの華麗・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫