・・・ けれ共、正直で気の弱い恭二は、お金の仕打があんまりだと思う様な事があっても、口に出して、「そんな事をしてくれるな。とは、どんなにしても云えなかった。 何かいざこざが起ったりすると、目顔ですがるお君を見向きもしないで・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ 只身の廻りの世話位なら誰もいやがるものもないけれども、何から何までとなると、女達も気の毒だし、第一、思う様には手が廻らないのが分って居る。 その上世話をするのもいいけれどいろいろな物に手をつけた体で子供の事をするなどはいくら消毒し・・・ 宮本百合子 「黒馬車」
・・・を持って居る人だったけれ共横から見る唇がたるんでシまりなく下がって居たので一目見ただけで千世子の心の喜びはあとかたもなく消えると、今まで美くしいと思えた人が堪らないほどみっともなく思う様になった事があった。 美くしくもなく勝れた頭を持っ・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
出典:青空文庫