・・・それとも海底噴火山の爆発かな。 気がついて見ると、僕は、書斎のロッキング・チェアに腰をかけて St. John Ervine の The Critics と云う脚本を読みながら、昼寝をしていたのである。船だと思ったのは、大方椅子の揺れる・・・ 芥川竜之介 「MENSURA ZOILI」
・・・ 大波に漂う小舟は、宙天に揺上らるる時は、ただ波ばかり、白き黒き雲の一片をも見ず、奈落に揉落さるる時は、海底の巌の根なる藻の、紅き碧きをさえ見ると言います。 風の一息死ぬ、真空の一瞬時には、町も、屋根も、軒下の流も、その屋根を圧して・・・ 泉鏡花 「雪霊続記」
・・・鴎外が董督した改訂六国史の大成を見ないで逝ったのは鴎外の心残りでもあったろうし、また学術上の恨事でもあった。 鴎外が博物館総長の椅子に坐るや、世間には新館長が積弊を打破して大改革をするという風説があった。丁度その頃、或る処で鴎外に会・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・けれど、階梯として何うしても児童等は嫌いなものも、好きなものと、同時に強いられる教育状態にある。私は、これ等の学校を卒業して、社会へ子供達が出た時に、学校生活がどれだけ役立ち、また、彼等を幸福ならしむるかと考えさせられるのであるが、これなど・・・ 小川未明 「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」
・・・――こうした発見は都会から不意に山間へ行ったものの闇を知る第一階梯である。 私は好んで闇のなかへ出かけた。溪ぎわの大きな椎の木の下に立って遠い街道の孤独の電燈を眺めた。深い闇のなかから遠い小さな光を跳めるほど感傷的なものはないだろう。私・・・ 梶井基次郎 「闇の絵巻」
一 大正十二年のおそろしい関東大地震の震源地は相模なだの大島の北上の海底で、そこのところが横巾最長三海里、たて十五海里の間、深さ二十ひろから百ひろまで、どかりと落ちこんだのがもとでした。 そのために・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・で一粒ずつ拾い集めた砂金、竜の鱗、生れて一度も日光に当った事のないどぶ鼠の眼玉、ほととぎすの吐出した水銀、蛍の尻の真珠、鸚鵡の青い舌、永遠に散らぬ芥子の花、梟の耳朶、てんとう虫の爪、きりぎりすの奥歯、海底に咲いた梅の花一輪、その他、とても此・・・ 太宰治 「ろまん燈籠」
・・・敵の軍艦が突然出てきて、一砲弾のために沈められて、海底の藻屑となっても遺憾がないと思った。金州の戦場では、機関銃の死の叫びのただ中を地に伏しつつ、勇ましく進んだ。戦友の血に塗れた姿に胸を撲ったこともないではないが、これも国のためだ、名誉だと・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・昔のジュール・ヴェルヌの海底旅行のようなものもある。また近代のではウェルズの「時の器械」とか「世界間の戦争」のようなものもある。いずれも科学的未来記のようなものとして、通俗的の興味は多分にあるであろうが、ほんとうの科学的精神といったようなも・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ 島が生まれるという記事なども、地球物理学的に解釈すると、海底火山の噴出、あるいは地震による海底の隆起によって海中に島が現われあるいは暗礁が露出する現象、あるいはまた河口における三角州の出現などを連想させるものがある。 なかんずく速・・・ 寺田寅彦 「神話と地球物理学」
出典:青空文庫