・・・それは地震の波が地殻を伝播する時に、陸地を通る時と海底を通る時とでその速度に少しの相違がある、そういう事実を説明すべき一つの理論の糸口のようなものであった。 とにかく一生懸命で絵を描いている途中でどうしてこんな考えが浮き上がって来たもの・・・ 寺田寅彦 「断片(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・「物理階梯」などが科学への最初の興味を注入してくれた。「地理初歩」という薄っぺらな本を夜学で教わった。その夜学というのが当時盛んであった政社の一つであったので、時々そういう社の示威運動のようなものが行なわれ、おおぜいで提灯をつけて夜の町を駆・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ジュール・ヴェルヌの「海底旅行」はこれに反して現実の世界における自然力の利用がいかに驚くべき可能性をもっているかを暗示するものであった。それから四十年後の近ごろになって新聞で潜航艇ノーチラスの北極探検に関する記事を読み、パラマウント発声映画・・・ 寺田寅彦 「読書の今昔」
・・・ 近ごろは海の深さを測定するために高周波の音波を船底から海水中に送り、それが海底で反響するのを利用する事が実行されるようになった。これを研究した学者たちが、どの程度まで上記の問題に立ち入ったか私は知らない。しかしこの鸚鵡石で・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・連想で呼び出される第一影像はただ一つの可能な付け句の暗示に過ぎないので、それだけでは決して付け句は成立しない、この第一影像を一つの階梯として洗練に洗練を重ねた上で付け句ができあがるべきはずである。 そういう階段としてはその連想がいかに突・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・明治四十三年八月の水害と、翌年四月の大火とは遊里とその周囲の町の光景とを変じて、次第に今日の如き特徴なき陋巷に化せしむる階梯をつくった。世の文学雑誌を見るも遊里を描いた小説にして、当年の傑作に匹疇すべきものは全くその跡を断つに至った。 ・・・ 永井荷風 「里の今昔」
・・・河豚は水面と海底との中間を泳いでいるし、食い意地が張っているので、エサをつけた糸をたらすとすぐに食いつく。しかし、ほんとうにおいしい河豚は、海底深くいる底河豚だ。河豚は一枚歯で、すごく力が強く貝殻でも食い割ってしまう。したがって、海底での貝・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・その後、廃藩置県、法律改定、学校設立、新聞発行、商売工業の変化より廃刀・断髪等の件々にいたるまで、その趣を見れば、我が日本を評してこれを新造の一国と云わざるをえず。人あるいはこの諸件の変革を見て、その原因を王政維新の一挙に帰し、政府をもって・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・「今晩開廷の運びになっている件が二つございますが、いかがでございましょうお疲れでいらっしゃいましょうか。」「いいや、よろしい。やります。しかし裁判の方針はどうですか。」「はい。裁判の方針はこちらの世界の人民が向うの世界になるべく・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・共産党の公判は公開ではあるが、勤労大衆に便利な日曜日には開廷されません。勤めがすんでから傍聴へ職場から動員されるように夜公判がひらかれることもありません。新聞では、こんどの帝国主義戦争がはじまってから、公判記事をまるでのせない日さえあるよう・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
出典:青空文庫