・・・「楊子は自分でものを書くようになったら『尾崎秀子』と改名するのもよいかと思います。お母さんの音とお父さんの秀の字とを含んで少し女にはきつい字ですが、それもよいでしょう。」この一句は、無量の思いをつたえる。愛のこころはこのように小粒な、し・・・ 宮本百合子 「人民のために捧げられた生涯」
・・・の中では、そのより正当な解明を与えている。今日の読者は、一人の筆者においてあらわれるこのような或る種の矛盾に対して、文化的明察の敏感性をもたなければならないと思う。そのような矛盾のよって来るところを我が文化の当面している問題として考える力を・・・ 宮本百合子 「世代の価値」
・・・つまり、勤労者として生き、社会に学び、この作者ぐらい現実の解明力としての勉学の意味も理解していると、いつか、モティーヴそのものの社会性が深まりひろがって、たとえば「町工場」で描かれているような「貧困」そのものにたいしてもおのずから私という主・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・そのような一郎の姿、二郎の在りよう、それを客観的に観察し、解明するHさんは、猫に先生である自分を観察させた作家漱石の自己への客観的態度の又の表現であろう。これだけ手のこんだ構成のなかで、漱石は偽りでかためられている家庭として自分の家庭を感じ・・・ 宮本百合子 「漱石の「行人」について」
・・・最後の言葉=彼にとっての和解は、とりもなおさず 彼自身制御し得なかった彼の芸術家の歴史性の解明力に存する というのは、何と劇的な、心を打つ眺めであろう。 ツワイクは、一九一九年にこの本を出した。しかし彼はこの部分では、分析のメスを浅くす・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・そのために去年の大会の時もとりあげられたように、日本の民主革命と民族の自主的発展の課題に根をおいて、堂々とブルジョア文学の動き、民主主義文学の動きをひっくるめてその相互関係を解明したような批評活動は、不足でした。日本のこんにちには、かつての・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・という、現状解明の場にとどまりかねる思いがある。「巨大な冷酷な秩序のヒダにはさまれてもがく虫のような存在として自己を意識し」て、そこに伊藤整の人間及び文学者としての存在感が定着しきれるものならば、どうして彼自身、きわめて具体的なファイティン・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・ンゲルスの言ったリアリズムとは、「資本主義的発展の内在的矛盾を――それが一般にブルジョア的創作方法に可能である限りにおいて、というのは、ブルジョア的リアリズムは究極において観念的なものになるからだ――解明するようなリアリズム」の問題であると・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・「バルザックが、その怪奇癖と、衒学趣味と晦冥で誇張的なその文体とで、以上にのべた近代人の趣味が要求するものの猶上を行っていることは遺憾ながら私も認めざるを得ない。しかし、それは問題でない。バルザックの聴衆はそれ独特のものであり、そのものとし・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・そして過去の運動がその段階において犯していたある点の機械的誤謬を指摘することで、今日の自分がプロレタリア作家として存在し得る意義を不自由そうに解明しているのである。 プロレタリア文学運動が成熟すればするほどその裾は幅広く、襞は多いものと・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
出典:青空文庫