降誕祭の朝、彼は癇癪を起した。そして、家事の手伝に来ていた婆を帰して仕舞った。 彼は前週の水曜日から、病気であった。ひどい重患ではなかった。床を出て自由に歩き廻る訳には行かないが、さりとて臥きりに寝台に縛られていると何・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・今日の主婦のすべてが経験している家事の重荷、これから結婚しようとする若い婦人たちをおそれさすほど重い世帯の苦労は、まじめなすべての男子が自分たちの不幸の一つとして見ているものです。愛しあった男女というのは、その社会的な苦労を、自分たちの一生・・・ 宮本百合子 「生きるための恋愛」
・・・主婦たちが、いろいろの内容のクラブをつくって有益にたのしく暮すときくが、それはつまり家事の単純化されていることとまったくつながった文化性であることを、きょうの日本の主婦は知りぬいている。 男と同じに女も教育をうけられるようになった。やっ・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・ドミトリーは勇気を失うまいとしながら、グラフィーラの、家事で荒れて大きい手をとった。「グラーシャ! わかってくれ。俺あ育ったんだ。元の俺じゃなくなったんだ。」 月給を貰うと、まあ自分には時計の鎖でも買ったり、グラフィーラに新しいショ・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・博識な良人につれそう家事的な情愛深い妻としてアンリエットは、息子カールに対しても、言葉のすくない母の愛で、その精神と肉体とをささえていたと思われる。男の子が、もし母の愛と、その生活の姿とで、女性への優しい思いやりをはぐくまれなかったら、どう・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・その一日の仕事の帰り途、市場へまわって夫婦は一緒に夕飯のための材料を買いました。家事の雑用を最も手まわしよくやって三時間。それからマリヤの夜の時間は家計簿の記入と中等教員選抜試験準備のためにつかわれて、朝の二時三時まで二つしか椅子のないキュ・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人の命の焔」
・・・ 家庭にいても何か一つ本気でやろうとする仕事をもっていれば、確に彼女は時間の上手なやりくりや家事の単純化を実行するでしょう。些細な日常の感情軋轢を整理することをおのずから学ぶであろうし、その点では、仕事そのものの上達につれて二重の賢さ、・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・そこで、ジャーナリズムの目的は達せられたので、岩藤雪夫の小説「鍛冶場」が、どんなひどい階級的裏切りを示しているか、ダラ幹小説であるかを、細かく批判しないでも一応適用したらしい形である。 大体いって、いわゆる専門外の人の作品批評はナカナカ・・・ 宮本百合子 「こういう月評が欲しい」
・・・女子大学などには家事のいろいろの表がございます。そういうものがあっていろいろ考えていらっしゃるから、ある場合には大へん新しい正しい方法をなさるし、年とった方から見れば「そんな面倒臭いことをいわないでも手加減ですよ」と、おっしゃるような場合が・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・案内の若い、労働通信員をしている技師と工場内の花の咲いたひろい通路を歩いていたら、こっちでは電熱炉で鉄を溶かしている鍛冶部の向い側のどこかで、嬉しそうなピアノの音がしはじめた。「セルマシストロイ」は巨大工場で未完成だ。各部がまだクラブを・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
出典:青空文庫