・・・おじいさんがそれをとめ、嘉ッコがすばやく逃げかかったとき、俄に途方もない、空の青セメントが一ぺんに落ちたというようなガタアッという音がして家はぐらぐらっとゆれ、みんなはぼかっとして呆れてしまいました。猫は嘉ッコの手から滑り落ちて、ぶるるっと・・・ 宮沢賢治 「十月の末」
・・・ 嘉吉はかっとなった。(じゃぃ、はきはきど返事せじゃ。何でぁ、あたな人形こさ奴おみちはさぁっと青じろくなってまた赤くなった。(ええ糞そのつら付嘉吉はまるで落ちはじめたなだれのように膳を向うへけ飛ばした。おみちはとうとううつぶ・・・ 宮沢賢治 「十六日」
・・・の中扉のカットを挿入 1 どんぐりと山猫山猫拝と書いたおかしな葉書が来たので、こどもが山の風の中へ出かけて行くはなし。必ず比較をされなければならないいまの学童たちの内奥からの反響です。 2 狼森と笊森、盗森人と森・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・ 大烏はかっとして思わず飛びあがって叫びました。「何を。生意気な。空の向う側へまっさかさまに落してやるぞ。」 蠍も怒って大きなからだをすばやくひねって尾の鉤を空に突き上げました。大烏は飛びあがってそれを避け今度はくちばしを槍のよ・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・龍があの黒雲にのって口をかっとひらいて火をふく所なんかはたまらなくいいけどもマアただの蛇がまっさおにうろこを光らして口から赤い舌をペロリペロリと出す事なんかもあたしゃだいすきさ、いいネエ……」 そのすごく光る目をあこがれる様に見はってお・・・ 宮本百合子 「お女郎蜘蛛」
二月号をひっくりかえして見ていて気になったことお耳にいれます。カットがまことに少く淋しいこと。題がどれも原形で文学にまでなっていない題であることなどです。これは次号予告を見ても強く感じました。文学雑誌は書く人も文学の空気を・・・ 宮本百合子 「気になったこと」
・・・その玉は所謂紅玉色で、硝子で薔薇カットが施こされていて、直径五分ばかりのものだ。紅玉色の硝子は、濃い黒い束ね髪の上にあった。髪の下に、生え際のすんなりした低い額と、心持受け口の唇とがある。納戸の着物を着た肩があって、そこには肩あげがある。・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・柔い若葉をつけたばかりの梧桐はかぜにもまれ、雨にたたかれた揚句、いきなりかっと照る暑い太陽にむされ、すっかりぐったりしおれたようになって、澄んだ空の前に立って居る。 六月の樹木と思えない程どす黒く汚く見えた。 六月二十四・・・ 宮本百合子 「一九二三年夏」
・・・されてカットされているんだろう? ソヴェト映画だからって観る側としては無条件によろこべないんだ。 ――それは相当みんな勘定にいれて見ると思う。ソヴェトじゃ映画製作は、計画的生産だってきいたが、そうか? ――鉄、石炭、麦、靴のよ・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・ 引越しの日は、晴れて暑い残暑の太陽が、広い駒込の通りを、かっと照して居た。 午前中本箱や夜具、トランク類を、石井の荷物自動車にのせ、英男が面白がって後につかまって送って行った。大工、善さん、おまつ等がAに手伝い、略、片がついたと思・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
出典:青空文庫