・・・曙覧の歌すら四季のには題詠とおぼしきがあり、かつ善からぬが多し。題詠必ずしも悪しとに非ず、写実必ずしも善しとに非ず。されど今日までの歌界の実際を見るに題詠に善き歌少くして写実に俗なる歌少し。曙覧が実地に写したる歌の中に飛騨の鉱山を詠めるがご・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・いいえどかれません、じゃ法令の通りボックシングをやりましょうとなるだろう、勝つことも負けることもある、けれども僕は卑怯は嫌いだからねえ、もしすきをねらって遁げたりするものがあってもそんなやつを追いかけやしない、あとでヘルマン大佐につかまるよ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・ じぶんもまたためいきをついて、そのうつくしい七つのマジエルの星を仰ぎながら、ああ、あしたの戦でわたくしが勝つことがいいのか、山烏がかつのがいいのか、それはわたくしにわかりません、ただあなたのお考のとおりです、わたくしはわたくしにきまっ・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・ じぶんもまたためいきをついて、そのうつくしい七つのマジエルの星を仰ぎながら、ああ、あしたの戦でわたくしが勝つことがいいのか、山烏がかつのがいいのか、それはわたくしにわかりません、ただあなたのお考のとおりです、わたくしはわたくしにきまっ・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・「マットン博士の神学はクリスト教神学である。且つその摂理の解釈に於て少しく遺憾の点のあったことは全く前論士の如くである。然しながら茲に集られたビジテリアン諸氏中約一割の仏教徒のあることを私は知っている。私も又実は仏教徒である。クリスト教・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・従って、部分部分の雰囲気は画面に濃く、且つ豊富なのであるが、この作の総体を一貫して迫って来る或る後味とでも云うべきものが、案外弱いのは何故だろう。私は、部分部分の描写の熱中が、全巻をひっくるめての総合的な調子の響を区切ってしまっていると感じ・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・物は人を動かすが、人が又物をいかに強力にうごかすかという人類の能動力その相互関係において有機的に芸術を見、且つ生もうとする段階に到達しているのである。徳永氏が傑れたものとしてあげている『中央公論』六月号のスペイン戦線からの作家たちのルポルタ・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・大した傑作とは云えまいこの映画が、その感情や智慧を中途半端に運ばせている芝居にも猶かつこの様にその心と眼とをひきつけるものを含んでいる女の生活とは、現実においてどういうものであるのだろうか。 それを思うたびに、心に一つのおどろきが深まる・・・ 宮本百合子 「雨の昼」
・・・ もうこうなっては根の強い方が勝つんやから。 栄蔵は、根くらべをする気になって居た。 義理がたい栄蔵は、ちょくちょく東京へ手紙をやっては、思い通りの結果が上らなくてすまないとか、気の毒だとか云ってやった。 栄蔵が、畢・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・はじめから理において勝つべき根拠を失っていて、三宅正太郎によってさえも悪法として警戒されていた治安維持法は、過去十数年間の日本から、知性を殺戮しつくしたのであった。そのあまりの無法さは、直接その刃の下におかれた人々の正気を狂わせたし、その光・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
出典:青空文庫