・・・普通教育にも理科の課程がかなり豊富にあるようであるから、それがよく呑み込めていれば、それだけでも一通りはかなり役に立つべきはずであるが、実際それがそうでないのは、教える方と教わる方と両方に罪があるであろう。教程や教授法にも改良の余地が沢山に・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・この過程と、映画の一つ一つのカットの連続を見てその一つのシーンの内容を理解する過程とは大体において同じようなものである。映画の製作者はつまり文字の代りにフィルムの断片で文章をかいて、吾々はそれを読んで行くのである。文字の方はその意味を覚える・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・ 二 製陶実演 三越へ行ったら某県物産展覧会というのが開催中であって、そこでなんとか焼きの陶器を作る過程の実演を観覧に供していた。回転台の上へ一塊の陶土を載せる。そろそろ回しながらまずこの団塊の重心がちょうど回転軸の・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・そこで今度は現品と同じ鋼索とタンバックルの組み合わせをいろいろな条件のもとに週期的に引っぱったりゆるめたりして試験した結果、実際に想像どおりに破壊の過程が進行することを確かめることができたのであった。要するにたった一本の銅線に生命がつながっ・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・しかしことによると前日新宿の百貨店で造花の売り場の前を通ったときの無意識の印象が無意識な過程を通じてこれに関係しているのかもしれない。 法事の場面については心当たりがある。前夜の夕刊に青森県大鰐の婚礼の奇風を紹介した写真があって、それに・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・が拾い出されたというのが、実際の過程であろう。 これと似通っていて、しかも本質的にだいぶ違う「金曜日」の例が一つある。 私は過去十何年の間、ほとんど毎週のように金曜日には、深川の某研究所に通って来た。電車がずいぶん長くかかるのに、電・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・工学上にもいろいろの応用のあるのはもちろんであるが、また一方では、平行山脈の生成の説明に適用されたり、また毛色の変わった例としては、生物の細胞組織が最初の空洞球状の原形からだんだんと皺を生じて発達する過程にまでもこの考えを応用しようと試みた・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・を相手の仕事から自然の研究が始まり、それがついに自然科学にまで発達するということは全く当然な過程であると言わなければならない。 そうだとすると、昔の主権者為政者のもとに祭官、巫術師らの行なった仕事の一部は今日では彼らの後裔の科学者の手に・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・彼らはただ現時の最高のアカデミックの課程を修得したルクレチウスにほかならないのである。 エネルギー不滅論の祖とせらるるロベルト・マイアーは最もよくルクレチウスの衣鉢を伝えた後裔であった。しかし彼は不幸にしてその当代の物理学に精通しなかっ・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・学校を出てから、東京へ出て、時代の新しい空気に触れることを希望していながら、固定的な義姉の愛に囚われて、今のような家庭の主婦となったことについては、彼女自身ははっきり意識していないにしても、私の感じえたところから言えば、多少枉屈的な運命の悲・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
出典:青空文庫