・・・ 私達の生活している現実が右のようであるとすれば、文化・文学を正当に発展せしめようとする忠実な努力は当然、可動的なインテリゲンツィアをして、その能動精神に最も意義ある方向を与えるよう尽されるべきであった。「知識階級は飽くまで知識階級とし・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・ むきだしな花道の端れでは、出を待っている山賊の乾児が酔った爺にくどくど纏いつかれている。眼隈を黒々ととり、鳥肌立って身震いしながら「いやだよ、うるさい」とすねていた女は、チョン、木が入ると急に、「御注進! 御注進!」と男の声を・・・ 宮本百合子 「山峡新春」
・・・ 犬の遠吠我はおびへぬあるまゝにうつす鏡のにくらしき 片頬ふくれしかほをのぞけば ひな勇を思ひ出してソトなでゝ涙ぐみけり青貝の 螺鈿の小箱光る悲しみ紫のふくさに包み花道で もらひし小箱今はかたみよ・・・ 宮本百合子 「短歌習作」
・・・ 京子は市村座の様な芝居がすきだと云って、 ねえまあ考えて御覧なさい、 丸の内にはない花道がありますよ。 いきななりをした男衆が幕を引いて行く時の気持、提灯のならんだ緋の棧敷に白い顔のお酌も見られますよ。 どんなに芝・・・ 宮本百合子 「千世子(三)」
・・・ インテリゲンツィアが階級をもたぬものであることや、可動的な本質から弱いものであるというような一応型にはまった、消極性の自認が近頃はやるけれども、本当に一人一人が、自分の毎日の生活の内部から現実に身をひたして感じつめて行けば、そこにイン・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・笑いなされ、先きには道具と仰せられ候故、武家の表道具を御覧に入れたり、茶器ならば、それも少々持合せ候とて、はじめて御取り出しなされし由、御当家におかせられては、代々武道の御心掛深くおわしまし、かたがた歌道茶事までも堪能に渡らせらるるが、天下・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
・・・御笑いなされ、先きには道具と仰せられ候故、武家の表道具を御覧に入れたり、茶器ならばそれも少々持合せ候とて、はじめて御取り出しなされし由、御当家におかせられては、代々武道の御心掛深くおわしまし、かたがた歌道茶事までも堪能に渡らせらるるが、天下・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
出典:青空文庫