・・・ところが働きながら歯医者へ通うことは時間の都合で不便だから、とうとうわたし達は工場へ歯科診療所をこしらえることにしたんです。二年計画でやったんです。みんなよろこんでいますよ。――わたしたちは誰しも早く婆さんになってしまいたくはないものね」・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ ラジオの国民歌謡は、男は国の守りとして外へ出てゆき、家を守り家業にいそしむこそ女であるもののつとめであるとくりかえし歌っている。岡本かの子さんのような芸術家は、和歌に同じような思想をうたい、女の家居の情を描いておられる。だが、現実の今・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ 真個の女の人が扮しているのだから、洋服でも、河合武雄の着る洋服ではない型と味いとを見たい。 斯様な印象の後に来たので、「邯鄲」は、随分、お伽噺的な愛らしさで、目に写った。巧くこなしたものだと思う。色彩の調和が、気の利いた「犬」の舞・・・ 宮本百合子 「印象」
・・・私が毎日毎日通った時分、誠之は斯様に黒い木の門と、足の下でザクザクいう玄関前を持ち、大きなコの字形に運動場を囲んだ木の低い建物で出来ていたのです。 校舎が改築されたのは、何時であったか。私は、未だ一度も内部の模様を見知らない。又、見たい・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・ 純粋に云って、詩と云うもののカテゴリーに入るか、如何うか、兎に角私にとっては、斯様な形式で書く唯一のものだ――私の詩と云える。 段々、かたくなく文字が流れ出す快感を覚える。何処まで、形式、内容が発達して行くか、 私にとっては、・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・ 斯様に外国の作家を尊重する現象は直に自国の優秀な作品を持たないと云う事には成るまい。嘗て米国は Stevenson や Allan Poe を産んだのだ。けれども今 Kipling に匹敵する作家としては O. Henry と数え始め・・・ 宮本百合子 「最近悦ばれているものから」
・・・ 文学の端初は、世界のあらゆる民族の生活において歌謡であった。原始の人類たちは、彼らのよろこび、悲しみ、勇躍にあたって歌い、踊った。文字はあとから、歌われた歌を記録した。だが、その歌よりもさきに、原始の祖先たちは、狩猟をし、獣の皮をはぎ・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ 斯様な条件での従業で、婦人は明らかに以前より健康を保つ多くの可能性をもつのであるから、従って、生れて来ようとする子供らの胎内での条件もより発育のために有利に変って来ているわけである。生れるという主格の受動性を示す文法上での表現は、とり・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・私斯様な前提を置いてから、少し許り、私がこちらへ来てから「私」の感じた事を書いて行こうとして居ります。 可成種々あるような気も致します、が、先ず同性と云う点から、こちらの婦人に就いて私の思ったままを述べさせて戴きましょう。 厨川白村・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 斯様に男の子の生れるのを喜ぶ風がありますが、また婦人から云えば、却って女の子を欲しがるのであります。それは男子は神様に仕えるのが第一で、主になって働くのは婦人ですから、親は働きの助けに女の子を欲しがるのであります。 やがて子供が相・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
出典:青空文庫