・・・ 次に舜典に徴するに、舜は下流社會の人、孝によりて遂に帝位を讓られしが、その事蹟たるや、制度、政治、巡狩、祭祀等、苟も人君が治民に關して成すべき一切の事業は殆どすべて舜の事蹟に附加せられ、且人道中最大なる孝道は、舜の特性として傳へらるゝ・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・「もっと下流がいいかな。水上の駅のほうには、雪がそんなになかったからね。」 死ぬる場所を語り合っていた。 宿にかえると蒲団が敷かれていた。かず枝は、すぐそれにもぐりこんで雑誌を読みはじめた。かず枝の蒲団の足のほうに、大きい火燵が・・・ 太宰治 「姥捨」
・・・そうしてずいぶん遠く下流にまでやって来る様子で、たいへん大きな河の河口で網を打っていたら、その網の中にはいっていたなどの話もあるようでございます。だいたい日本のどの辺に多くいるのか、それはあのシーボルトさんの他にも、和蘭人のハンデルホーメン・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・頭を水面に、すっと高く出し、にこにこ笑いながら、わあ寒い、寒いなあ、と言い私のほうを振り向き振り向き、みるみる下流に押し流されて行った。私は、わけもわからず走り出した。大事件だ。あれは、溺死するにきまっている。私は、泳げないが、でも、見てい・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・ 昔のくだらない花柳小説なんていうものに、よくこんな場面があって、そうして、それが「妙な縁」という事になり、そこから恋愛がはじまるという陳腐な趣向が少くなかったようであるが、しかし、私のこの体験談に於いては、何の恋愛もはじまらなかった。・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・きのうの豪雨で山の水源地は氾濫し、濁流滔々と下流に集り、猛勢一挙に橋を破壊し、どうどうと響きをあげる激流が、木葉微塵に橋桁を跳ね飛ばしていた。彼は茫然と、立ちすくんだ。あちこちと眺めまわし、また、声を限りに呼びたててみたが、繋舟は残らず浪に・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・のあらましの内容は、嫌厭先生という年わかい世のすねものが面白おかしく世の中を渡ったことの次第を叙したものであって、たとえば嫌厭先生が花柳の巷に遊ぶにしても或いは役者といつわり或いはお大尽を気取り或いはお忍びの高貴のひとのふりをする。そのいか・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・ 刀根の下流の描写は、――大越から中田までの間の描写は想像でやったので、後に行ってみて、ひどく違っているのを発見して、惜しいことをしたと思った。やはり、写生でなければだめだと思った。これに引きかえて、発戸河岸の松原あたりは、実際行ってみ・・・ 田山花袋 「『田舎教師』について」
・・・この前に来たときは橋より下流の大きい池にばかり泳いでいたのが、その後に一度下の池で花火を上げてから以来上の池へ移って、それきり、どうしても、橋一つ隔てた下の池へは行かなくなったそうである。そうして、一日じゅうの大部分は藤棚の下の浅瀬で眠った・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・「密謀の集会」「大広間の評定」「道中の行列」これには大抵同じ土手や昭和国道がつかわれる。「花柳街のセット」「宿屋の帳場」「河原の剣劇」「御寺の前の追駆け」「茶屋の二階の障子の影法師」それから……。それからまたどの映画にも必ず根気よく実に根気・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
出典:青空文庫