・・・また手加減が窮屈になったりすると音が変る。それを「声がわり」だと云って笑ったりしました。家族の中でも誰の声らしいと云いますから末の弟の声だろうと云ったのに関聯してです。私は弟の変声期を想像するのがなにかむごい気がするときがあります。次の話も・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・日本全国、どこの城下も町は新しく変わり、士族小路は古く変わるのが例であるが岩――もその通りで、町の方は新しい建物もでき、きらびやかな店もできて万、何となく今の世のさまにともなっているが、士族屋敷の方はその反対で、いたるところ、古い都の断礎の・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・予言者は天意の代弁者であり、その権威に代わる者だからである。 その同時代と、大衆への没落的の愛を抱かぬ者も予言者たり得ない。そのカラーを汚し、その靴を泥濘へ、象牙の塔よりも塵労のちまたに、汗と涙と――血にさえもまみれることを欲うこそ予言・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・吾々は、ブルジョア的平和主義者や、日和見主義者に変ることなく、吾々が階級社会に住んでいること、階級闘争と支配階級の権力の打倒との外には、それからの如何なる遁れ路もないし、またあり得ないことを忘れてはならぬ。吾々のスローガンはこうでなければな・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
秀吉金冠を戴きたりといえども五右衛門四天を着けたりといえども猿か友市生れた時は同じ乳呑児なり太閤たると大盗たると聾が聞かば音は異るまじきも変るは塵の世の虫けらどもが栄枯窮達一度が末代とは阿房陀羅経もまたこれを説けりお噺は山・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・子供の変わって行くにも驚く。三郎も私に向かって、以前のようには感情を隠さなくなった。めまぐるしく動いてやまないような三郎にも、なんとなく落ちついたところが見えて来た。子供の変わるのはおとなの移り気とは違う、子供は常に新しい――そう私に思わせ・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・男等の位置と白楊の位置とが変るので、その男等が歩いているという事がやっと知れるのである。七人とも上着の扣鈕をみな掛けて、襟を立てて、両手をずぼんの隠しに入れている。話声もしない。笑声もしない。青い目で空を仰ぐような事もない。鈍い、悲しげな、・・・ 著:シュミットボンウィルヘルム 訳:森鴎外 「鴉」
・・・ 例え、スバーは物こそ云えないでも、其に代る、睫毛の長い、大きな黒い二つの眼は持っていました。又、彼女の唇は、心の中に湧いて来る種々な思いに応じて、物は云わないでも、風が吹けば震える木の葉のように震えました。 私共が言葉で自分達の考・・・ 著:タゴールラビンドラナート 訳:宮本百合子 「唖娘スバー」
・・・トランプの遊びのように、マイナスを全部あつめるとプラスに変るという事は、この世の道徳には起り得ない事でしょうか。 神がいるなら、出て来て下さい! 私は、お正月の末に、お店のお客にけがされました。 その夜は、雨が降っていました。夫は、・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・ それから二人で交る代る、熱心に打ち合った。銃の音は木精のように続いて鳴り渡った。そのうち女学生の方が先に逆せて来た。そして弾丸が始終高い所ばかりを飛ぶようになった。 女房も矢張り気がぼうっとして来て、なんでももう百発も打ったような・・・ 太宰治 「女の決闘」
出典:青空文庫