・・・ ことし四月某日、土木、功を竣め、新たに舎の規律勧戒を立てり。こいねがわくは吾が党の士、千里笈を担うてここに集り、才を育し智を養い、進退必ず礼を守り、交際必ず誼を重じ、もって他日世になす者あらば、また国家のために小補なきにあらず。かつま・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・これらの人々のような立場になったとき、こういう感懐を書くのは日本の伝統的風格であるという意見もあろう。そういう見解にたっていうならば、またおのずからつぎの事実が理解されてくる。こんにち、色紙の辞句にあらわれたような観念的でまた独善的な、いわ・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・自分の感懐を、自分のものとして肯定する能力さえ奪われてきた。 今日、ある程度文学的業績をかさねた作家を見ると、ほとんど四十歳前後の人々である。それからあとにつづく、より若い、より未熟ではあるが前途の洋々とした作家というものの層は、空白と・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 詩吟というものは、ずっと昔も一部の人は好んだろうが、特に幕末から明治の初頭にかけて、当時の血気壮な青年たちが、崩れゆく過去の生活と波瀾の間に未だ形をととのえない近代日本の社会の出生を待つ時期の感懐を吐露するてだてとして流行したものであ・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・そのこころに通じるものがあるようで、火野葦平、林房雄、今日出海、上田広、岩田豊雄など今回戦争協力による追放から解除された諸氏に共通な感懐でもあろうか。 東京新聞にのった火野の文章のどこの行をさがしても、「昔にかえった」出版界の事情「老舗・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・ これらの状態を、ひとめでわかる統計図にして、今日の日本の若い女性たちが眺めたら、彼女たちは自分たちの文化上の実力の伝統について、どんな感懐をもつであろうか。 日本は、知られているとおり出版物の数の多いこと、種類の夥しいことでは、世・・・ 宮本百合子 「女性の書く本」
・・・そこには、娘が年を重ね生活の経験を深めるにつれて、いよいよ思いやりをふかめずにいられなくなるような、若々しくしかも老年の思慮にみちた父のある情感、感懐が花や森や猟人に象徴して語られているのである。〔一九四一年四月〕・・・ 宮本百合子 「父の手紙」
・・・にしろ、やはり『若菜集』に集められた詩と同じく、自然は作者の主観的な感懐の対象とされている。移りゆき、過ぎゆく自然の姿をいたむ心が抽象的にうたわれているのである。『夏草』には、前の二つの詩集とちがった要素を加えて自然がうたわれ初めている・・・ 宮本百合子 「藤村の文学にうつる自然」
・・・ああいう奇妙な常識をはずれた区わけをしたのは、憤りより寧ろ憂いに近い感懐を抱かせたと思う。あれはどうなったのだろう。あれときょうとの間に、どんな健全な経過が辿られたのだろうか。誰しもが知りたいところであろうと思う。 一つの国で、紙の・・・ 宮本百合子 「日本文化のために」
・・・ 国民の文学という場合、自身の雄壮を自身の耳に向ってうたう感懐に立ったロマンティシズムのほかに、国民の日々の生活が刻んでいる像を、あらゆる真実の姿でうけいれ、創り出してゆく旺んな創造力の発動にたえるだけに、日本の雄壮な精神も成熟して来て・・・ 宮本百合子 「文学は常に具体的」
出典:青空文庫