・・・という一冊の本が目につき、目次を見ると、文章の類型と作家という章に谷崎潤一郎氏と志賀直哉氏という項があり、今度の本の著者波多野完治氏が当時その研究を一部発表されたものであったことがわかったのであった。 新しくされた興味をもって、その本の・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・ 文章のわかりやすさ、無制限に数の多い漢字を整理し、複雑な仮名づかいを単純にして、子供たちの負担を軽くし、日本語の世界化によい条件をつくろうとしている国語国字改良の運動もある。これは、ジェスチュアの多い、勇ましい、そしてわかりやすい文章・・・ 宮本百合子 「今日の文章」
・・・ 一人の仲間は、「活字中の漢字という漢字を知って居り」その人を先にたてて皆のあつまる会をつくり、会の金を出すためにその男はゴミ箱から緒の切れた板うらを出して来てはいた。会は雑誌とデッドボールと、バリカンとカミソリを買い要求に応じて全工場・・・ 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
・・・ 次に夜業四割引反対の闘争のために、全員をまき込むことを考え、親睦会の自治化をはかる。幹事改選に壮年のSを当選させる。そして、大衆的懇談会で革新有志二十人をつくる。国鉄。 一般に官業だから政府のつぶれぬうちは従業員の生活は保・・・ 宮本百合子 「大衆闘争についてのノート」
・・・ 差出人は、同級会幹事の誰それとしてあり、宛名は、まぎれもない自分だ。けれども、内容がはっきり心に写らない。文句は、深田様がお産で去月何日死去されましたから、御悔みのしるしに何か皆で買ってあげたい、一円以上三円位まで御送り下さい、という・・・ 宮本百合子 「追想」
・・・附記 谷氏はしたしみぶかく漢字制限を使用されています。〔一九四八年四月〕 宮本百合子 「私は何を読むか」
・・・ 彼らは感じのなさそうな顔のぼんやりしたふうで、買い手の値ぶみを聞いて、売り価を維持している。あるいはまた急に踏まれた安価にまけて、買い手を呼び止める、買い手はそろそろ逃げかけたので、『よろしい、お持ちなされ!』 かれこれするう・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・敵対の感じを持っているものはないらしい。 そこで木村はその挨拶をする人は、どんな心持でいるだろうかと推察して見る。先ず小説なぞを書くものは変人だとは確かに思っている。変人と思うと同時に、気の毒な人だと感じて、protg にしてくれるとい・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・「それは漢字ばかりで書いた本で、お前にはまだ読めない」と言うと、重ねて「どんなことが書いてあります」と問う。多分広告に、修養のために読むべき書だというようなことが書いてあったので、子供が熱心に内容を知りたく思ったのであろう。 私はと・・・ 森鴎外 「寒山拾得縁起」
・・・まだ植字啓源などと云う本の行われた時代の字書だから、音訳に漢字が当て嵌めてある。今でもその字を記憶しているから、ここに書いても好いが、サフランと三字に書いてある初の字は、所詮活字には有り合せまい。依って偏旁を分けて説明する。「水」の偏に「自・・・ 森鴎外 「サフラン」
出典:青空文庫