・・・寧ろ鹹水と淡水とのように、一つに融け合っているものである。現に精神的教養を受けない京阪辺の紳士諸君はすっぽんの汁を啜った後、鰻を菜に飯を食うさえ、無上の快に数えているではないか? 且又水や寒気などにも肉体的享楽の存することは寒中水泳の示すと・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・芸の進歩はことに迅速にして、物理の発明に富むのみならず、その発明したるものを、人事の実際に施して実益を取るの工風、日に新たにして、およそ工場または農作等に用うる機関の類はむろん、日常の手業と名づくべき灌水・割烹・煎茶・点燈の細事にいたるまで・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 雪はチカチカ青く光り、そして今日も寒水石のように堅く凍りました。 四郎は狐の紺三郎との約束を思い出して妹のかん子にそっと云いました。「今夜狐の幻燈会なんだね。行こうか。」 するとかん子は、「行きましょう。行きましょう。・・・ 宮沢賢治 「雪渡り」
・・・丁度ソヴェト同盟では前年に第一次五ヵ年計画を完遂した結果、これまでのプロレタリア芸術理論を発展させるような社会条件がそなわって来て、従来の唯物弁証法的創作方法を、社会主義的リアリズムにおしすすめた。その社会主義的リアリズムの創作方法の理論は・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・幼年と成年、老年と自身との間に、鋭い歴史的自覚の線を感じ、それをおしすすめ、新民主主義という自身の興味つきない課題を完遂して、世界の中に一人前になろうと欲してこそ、自然なのである。 燦く石にさえ、宝石として一つ一つにさまざまの名がつ・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ ナポレオンの寝室では、寒水石の寝台が、ペルシャの鹿を浮かべた緋緞帳に囲まれて彼の寝顔を捧げていた。夜は更けていった。広い宮殿の廻廊からは人影が消えてただ裸像の彫刻だけが黙然と立っていた。すると、突然ナポレオンの腹の上で、彼の太い十本の・・・ 横光利一 「ナポレオンと田虫」
出典:青空文庫