・・・余輩常に思うに、今の諸華族が様々の仕組を設けて様々のことに財を費し、様々の憂を憂て様々の奇策妙計を運らさんよりも、むしろその財の未だ空しく消散せざるに当て、早く銘々の旧藩地に学校を立てなば、数年の後は間接の功を奏して、華族の私のためにも藩地・・・ 福沢諭吉 「旧藩情」
・・・今日いずれの国の法律を以てしても、殺人罪は一番重く罰せられる。間接ではあるけれども、ビジテリアンたちも又この罪を免れない。近き将来、各国から委員が集って充分商議の上厳重に処罰されるのはわかり切ったことである。又この事実は、ビジテリアンたちの・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ どの新聞雑誌を見ても、銃後の婦人の力の実質が、この頃は生産拡充への直接間接の参加というところに重点をおかれており、常に欧州大戦当時の欧州婦人の活動が引きあわされている。「今から女工を養成して置くように」という言葉は、すでに去る五月杉山・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
我々の、未だ完全に世界化されない生活感情では、兎角外国で起った事は、まるで異った遊星に生じた現象ででもあるかのような、間接さを以て、一般に迎えられる。理論は、既に、或る程度まで宇宙的になっているだろう。然し、真実、一人一人・・・ 宮本百合子 「アワァビット」
・・・大学教授であり、その人々の直接か間接かの先生というところに、日本語の封建的特質を生かさないでよい。そのような判断そのもののうちにわたしたちの人間的、社会的自我の課題、その自主性と発展の契機がひそんでいる。「わたしたちは、やっと青春をとり・・・ 宮本百合子 「生きつつある自意識」
・・・新しい現実にふさわしくしなやかで、機能の高い関節をどんなにふやすことができただろうか。まけおしみぬきで、事実を事実として見るならば、民主的文学運動におけるこの地点には、思いのほかの地すべりがある。 太宰治の死に際して、受動的な形であらわ・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・世間の事は文学の上に、影がうつるようにうつっていますから、間接に分かるのです。」木村の詞は謙遜のようにも聞え、弁解のようにも聞えた。「そうすると文学の本に発売禁止を食わせるのは影を捉えるようなもので、駄目なのだろうかね。」 木村が犬・・・ 森鴎外 「食堂」
・・・腱がしっかりしていて太いので、関節の大さが手足の大さと同じになっています。足一本でいつまでも立っていて、も一つの足を直角に伸ばしていられる位、丈夫なのです。丁度地に根を深く卸している木のようなのですね。肩と腰の濶い地中海の type とも違・・・ 森鴎外 「花子」
・・・秋三は堅い柴を折るように、膝頭で安次の手足の関節をへし折った。そして、棺を立てると身体はごそりと音を立てて横さまに底へ辷った。 秋三は棺を一人で吊り上げてみた。「此奴、軽石みたいな奴や。」「そやそや、お前今頃から棺桶の中へ入れた・・・ 横光利一 「南北」
・・・むしろ鑑賞者の生活を高め豊富にするということによって、間接に社会の秩序を高め風俗を善良にする。裸体の男女が相抱いている姿を描写した彫刻絵画も、それが芸術品でありまた芸術品として鑑賞される以上は、決して風俗を壊乱しない。しかし芸術品は必ずしも・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫