・・・ 二十二日、同じく閑窓読書の他なし。 二十三日、同じく。 二十四日、同じく。 二十五日、朝、基督教会堂に行きて説教をきく。仏教もこの教も人の口より聞けば有難からずと思いぬ。 二十六日、いかがなしけん頭痛烈しくしていかんと・・・ 幸田露伴 「突貫紀行」
・・・はじめてこの時少年の面貌風采の全幅を目にして見ると、先刻からこの少年に対して自分の抱いていた感想は全く誤っていて、この少年もまた他の同じ位の年齢の児童と同様に真率で温和で少年らしい愛らしい無邪気な感情の所有者であり、そしてその上に聡明さのあ・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・朝に晩に逢う人は、あたかも住慣れた町を眺めるように、近過ぎて反って何の新しい感想も起らないが、稀に面を合せた友達を見ると、実に、驚くほど変っている。高瀬という友達の言草ではないが、「人間に二通りある――一方の人はじりじり年をとる。他方の人は・・・ 島崎藤村 「並木」
「何か、最近の、御感想を聞かせて下さい。」「困りました。」「困りましたでは、私のほうで困ります。何か、聞かせて下さい。」「人間は、正直でなければならない、と最近つくづく感じます。おろかな感想ですが、きのうも道を歩・・・ 太宰治 「一問一答」
・・・二日も前に帰って来て、そうして、嫁と相談して、馬小屋の屋根裏の、この辺ではマギと言っていますが、まあ乾草や何かを入れて置くところですな、そこへ隠れていたのです。もちろん、嫁の入智慧です。母は盲目だし、いい加減にだまして、そうしてこっそり馬小・・・ 太宰治 「嘘」
・・・と私は、頗る軽薄な感想を口走った。「そのお嫁さんはあなたに惚れてやしませんか?」 名誉職は笑わずに首をかしげた。それから、まじめにこう答えた。「そんな事はありません。」とはっきり否定し、そうして、いよいよまじめに小さい溜息さえも・・・ 太宰治 「嘘」
・・・その後で、私は、この牧師さんに、れいの女房の遺書を読ませて、その感想を問いただしました。「あなたなら、この女房に、なんと答えますか。この牧師さんは、たいへん軽蔑されてやっつけられているようですが、これは、これでいいのでしょうか。あなたは・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・少女に関する感想の多いのはむろんのことだ。 その日は校正が多いので、先生一人それに忙殺されたが、午後二時ころ、少し片づいたので一息吐いていると、 「杉田君」 と編集長が呼んだ。 「え?」 とそっちを向くと、 「君の近・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・これは通例乾燥無味な表に詰め込んだだらしのないものである。これなどは思い切って切り詰め、年代いじりなどは抜きにして綱領だけに止めたい。特に古い時代の歴史などはずいぶん抜かしてしまっても吾人の生活に大した影響はない。私は学生がアレキサンダー大・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・いわゆる案内記の無味乾燥なのに反してすぐれた文学者の自由な紀行文やあるいは鋭い科学者のまとまらない観察記は、それがいかに狭い範囲の題材に限られていても、その中に躍動している生きた体験から流露するあるものは、直接に読者の胸にしみ込む、そしてた・・・ 寺田寅彦 「案内者」
出典:青空文庫