・・・と、おじいさんは感嘆して、おばあさんと話し合いました。「絵を描いたろうそくをおくれ。」といって、朝から晩まで、子供や、大人がこの店頭へ買いにきました。はたして、絵を描いたろうそくは、みんなに受けたのであります。 すると、ここに不思議・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・その簡単な有り様は、太古の移住民族のごとく、また風に漂う浮き草にも似て、今日は、東へ、明日は、南へと、いうふうでありました。信吉はそれを見ると、一種の哀愁を感ずるとともに、「もっとにぎやかな町があるのだろう。いってみたいものだな。」と、思っ・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
・・・と、博士は、その一つ、一つを手に取り上げてながめていましたが、「これは、私のまだ見たことのない、珍しいものです。」と、感歎していました。 このとき、信吉は、「ご入用なら、あげます。」といいました。 博士の目は、たちまち、感謝・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
・・・里子の時分、転々と移っていたことに似ているわけだったが、しかしさすがの父も昔のことはもう忘れていたのか、そんな私を簡単に不良扱いにして勘当してしまいました。しかし勘当されたとなると、もうどこも雇ってくれるところはなし、といって働かねば食えず・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・ 私は彼の旺盛な食慾に感嘆した。その逞しさに畏敬の念すら抱いた。「まるで大阪みたいな奴だ」 所が、きけばその青年は一種の飢餓恐怖症に罹っていて、食べても食べても絶えず空腹感に襲われるので、無我夢中で食べているという事である。逞し・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・に書いてもらっていた処方箋を、そっくりそのまま真似てつくったときくからは、一応うなずけもしたが、それにしてもそれだけの見聞でひとかどの薬剤師になりすまし、いきなり薬屋開業とは、さすがにお前だと、暫らく感嘆していた。 それと、もうひとつあ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・弘前の菩提寺で簡単な法要をすませたが、その席で伯母などからさんざん油をしぼられ、ほうほうの体で帰京した。その前後から自分は節制の気持を棄てた。その結果が、あと十日と差迫った因果の塊りと、なったというわけである。…… ああ、それにしても、・・・ 葛西善蔵 「死児を産む」
私は奈良にT新夫婦を訪ねて、一週間ほど彼らと遊び暮した。五月初旬の奈良公園は、すてきなものであった。初めての私には、日本一とも世界一とも感歎したいくらいであった。彼らは公園の中の休み茶屋の離れの亭を借りて、ままごとのような理想的な新婚・・・ 葛西善蔵 「遊動円木」
・・・わけもなく簡単な黒と白のイメイジである。しかしなんという言いあらわしがたい感情に包まれた風景か。その銅板画にはここに人が棲んでいる。戸を鎖し眠りに入っている。星空の下に、闇黒のなかに。彼らはなにも知らない。この星空も、この闇黒も。虚無から彼・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・ 室の下等にして黒く暗憺なるを憂うるなかれ、桂正作はその主義と、その性情によって、すべてこれらの黒くして暗憺たるものをば化して純潔にして高貴、感嘆すべく畏敬すべきものとなしているのである。 彼は例のごとくいとも快活に胸臆を開いて語っ・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
出典:青空文庫