・・・○くだものの鑑定 皮の青いのが酸くて、赤いのが甘いという位は誰れにもわかる。林檎のように種類の多いものは皮の色を見て味を判定することが出来ぬが、ただ緑色の交っている林檎は酸いという事だけはたしかだ。梨は皮の色の茶色がかっている方が甘味が・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・ 坂を下りて提灯が見えなくなると熊手持って帰る人が頻りに目につくから、どんな奴が熊手なんか買うか試に人相を鑑定してやろうと思うて居ると、向うから馬鹿に大きな熊手をさしあげて威張ってる奴がやって来た。職人であろうか、しかし善く分らぬ。月が・・・ 正岡子規 「熊手と提灯」
・・・たちまち道の右側に、その粘土作りの大きな家がしゃんと立って、世界裁判長官邸と看板がかかって居りました。「ご免なさい。ご免なさい。」とネネムは赤い髪を掻きながら云いました。 すると家の中からペタペタペタペタ沢山の沢山のばけものどもが出・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
・・・――或る日、子供は畑から青紫蘇の芽生えに違いないと鑑定をつけた草を十二本抜いて来た。それから、その空地のちょうど真中ほどの場所を選んで十二の穴を掘った。十二の穴がちゃんと同じような間を置いて、縦に三つ、横に四側並ぶようにと、どんなに熱心に竹・・・ 宮本百合子 「雨と子供」
・・・「どこで?」「官邸。……軍人だって」「ふーむ」 犬養暗殺のニュースは、私に重く、暗く、鋭い情勢を感じさせた。閃光のように、刑務所や警察の留置場で闘っている同志たちのこと、更に知られざる無数の革命的労働者・農民のことが思われた・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・林学専門なら山がよく鑑定されるわけだろう。その直接間接の売買は、現在の経済の組立ての中では金銭上の富を意味している。どんな樹木の山はいい価で利益もある。というなら同じ卑俗さにしろわかりもするが、その現実はふせて、炭の空俵一俵でどれだけ米を炊・・・ 宮本百合子 「市民の生活と科学」
・・・昭和七年五月十五日に永田町の首相官邸で当時の首相であった犬養毅を射殺した一団のテロリスト将校がありました。前年にいわゆる満州事変がおこって日本の陸軍が侵略戦争へさかおとしになってゆく一歩がひらかれたときでした。そのとき、将校にとりまかれた首・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
・・・そして、冗談と十分対手に分らせた物々しさで、「どうだい、ひとつ多喜子さんに僕たちが何に見えるか鑑定していただこうじゃないか」と云い出した。「何に見えるって――何なの?」 桃子の顔を見ると、桃子は火鉢のふちへもたれかかって妙に・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・政府の役人でしたでしょうか、官邸におさまっているえらい人でしたでしょうか。そうではありませんでした。社会主義者、共産主義者といわれて言論の自由をうばわれ牢屋にいれられていた人々です。本気で戦争に反対し、つまり私たちの婦人の幸福を守ろうとして・・・ 宮本百合子 「本当の愛嬌ということ」
・・・そのことをぺてん師の鑑定家の爺と番頭とがあくどく揶揄した。「さて、学問のあるお前のことだ。この問題を噛み分けて見な。ここに、千人の裸坊主がいる。五百人が女で、五百人が男だ。この中にアダムとエヴァがいるが、お前はどこで見分けるかい?」・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫