・・・またその巻頭に掲載された和辻哲郎氏の「風土の現象」と題する所説と、それを序編とする同氏の近刊著書「風土」における最も独創的な全機的自然観を参照されたい。自分の上述の所説の中には和辻氏の従来すでに発表された自然と人間との関係についての多くの所・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・たとえば科学の方面で言えばネチュアーの巻頭の紹介欄のようなものでもかなり便利である。たとえいくらか批評の見地が偏する恐れはあっても、利害を離れたそれぞれの専門家の忠実な紹介である限り、勝手のわからぬ読者がとんだにせ物を押しつけられる恐れは少・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・婦人雑誌の巻頭挿画らしい色刷の絵が一枚貼ってある。ベッドが八つ。それがいろいろ様式がちがう。窓の下に一列のスチームヒーター。色々の手拭やタオルの洗濯したのがその上に干し並べてある。それらがみんな吸えるだけの熱量を吸って温かそうにふくれ上がっ・・・ 寺田寅彦 「病院風景」
・・・ そのほかの知友の中でも、中学時代からの交遊の跡を追懐した熱情のこもった弔詞を寄せられた人や、また亮が読むべくしてついに読む事のできなかった倉田氏の著書の巻頭に懇篤な追悼文を題して遺族に贈られた人もあった。 私はここでそういう人々の・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・の有機的な系統に関する分析的な研究が遂げられる日の来るのを期待したく思うのである。 七 短歌の連作と連句 近ごろ岩波文庫の「左千夫歌論抄」の巻頭にある「連作論」を読んで少なからざる興味を感じたのであるが、同時に連・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・そのへんからは土堤の左右に杉の古木が並木になり、上熊本駅へゆく間道で、男女の逢引の場所として、土地でも知られているところだったが、三吉にはもはやおっくうであった。「あの、深水さんがね、貴方のことを――」 夕闇の底に、かえってくっきり・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ダボハゼに似ているので、関東方面でもドンコを見たという人があるけれども、学問的にもいないことが証明されている。 魚の辞典を引いてみると、ドンコはドンコ属という独立した一科になっている。辞書や伝承によって、鈍甲、胴甲、貪魚、鈍魚、などとい・・・ 火野葦平 「ゲテ魚好き」
・・・これが己の求める物に達する真直な道を見る事の出来ない時、厭な間道を探し損なった記念品だ。この十字架に掛けられていなさる耶蘇殿は定めて身に覚えがあろう。その疵のある象牙の足の下に身を倒して甘い焔を胸の中に受けようと思いながら、その胸は煖まる代・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・ 関東の農村は、汽車でとおっても、雑木林をぬけたところには畑があり、そこでヒエが穂を出しているかと思うと、南瓜畑があり、田圃の上にはとうもろこしのひろい葉がゆれている。草堤に萩が咲いていたりもする。 ところが秋田から山形沿線の稲田の・・・ 宮本百合子 「青田は果なし」
・・・けれども、この年の秋の関東地方の大震災につづく大杉栄、伊藤野枝、その甥である男の子供の虐殺。各地における朝鮮、中国労働者の虐殺。亀戸事件などは、人種的偏見と軍人・右翼の暴力に対する心からの憎悪をめざまさした。一九一八年ごろ日本におけるアイヌ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
出典:青空文庫