『集団行進』をいただき、大変に興味ふかく、得るところも多く拝見しました。巻頭の序文によると、この集は最近一年間において短歌をつくる労働者作家が非常にふえたことを一つの特徴として示しているとのことです。 この一年と云えば私・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
田端の高台からずうっとおりて来て、うちのある本郷の高台へのぼるまでの間は、田圃だった。その田圃の、田端よりの方に一筋の小川が流れていた。関東の田圃を流れる小川らしく、流れのふちには幾株かの榛の木が生えていた。二間ばかりもあ・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・京都人の日常生活の細やかさ、手奇麗さなど、風景でも大ざっぱで野趣のある関東から来た人は、誰でも賞め、価値を認める。全く或る点よい。だが、其なら京都の人は本当に情趣豊かな風流人かというと、さて、と思う。面白いことに、生粋の京都生れ、京都暮しの・・・ 宮本百合子 「京都人の生活」
・・・いかにも関東の古寺らしく、大まかに寂び廃れた趣きよし。関西の古寺とは違う。雰囲気が。 小僧夕方のお勤め。木魚の音。やがて背のかがんだ年よりの男が別な小僧をつれて出て来、一方の大きい浅草観音のと同じ扉をギーとしめ、こっちに来て賽銭箱をあけ・・・ 宮本百合子 「金色の秋の暮」
・・・この頃の日本の交通機関のおそろしい混乱と、そこで敢闘する婦人たちの姿をみたとき、こう迄がんばる日本の婦人が、やがてこの混乱の根本を改革するエネルギーとして自身を見出し、又その方向に真摯な努力をつづける偽りない自身の政党を選別するときが来るこ・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・という巻頭論文がのっている。貪るように読んだ。同志蔵原をはじめ、多くの同志たちの不撓の闘争が語られてある。その中に自分の名も加わっている。読んでいるうちに覚えず涙がこぼれそうになった。このような涙を見せてやるのは勿体ない。――自分は段々椅子・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・ この集の巻頭にある「無罪の判決」の中には探求すべきいくつかの問題がかくされているのである。話の筋は、氏の得意とされる馴れの行動による知識人夫妻の悲劇的殺傷問題である。良人が兇器をもって不自然に死んだ妻の傍に立っていた。だから良人が手を・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・石川達三氏は、今日の人民的な民主主義をうちたてようとしているすべての正直な人々の努力の真只中でこういう放言をしながら、四国地方の反動団体の巻頭言などを書いています。 また先日日比谷で行われたユネスコの大会で、ユネスコ文学のことについて演・・・ 宮本百合子 「一九四七・八年の文壇」
・・・『新日本文学』第四号の巻頭に、中野重治さんが「批評の人間性」という論文をかいています。民主主義文学の伝統にたいして正当性をかいている平野謙、荒正人氏たちの論説を反駁し、書きぶりは、アクロバットめいているが、衝く点はたしかについています。こう・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・ また、七月の『文学評論』の巻頭言には、「批評における図式主義の再発を防ぐ」という論文があって私の興味をひいた。 この論文では、創作方法の問題を再び「現実認識の一般方法の問題」「唯物弁証法」に「還元しきる傾向」が最近若い批評家の中に・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
出典:青空文庫