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・・・私は、とにかく、犬に出逢うと、満面に微笑を湛えて、いささかも害心のないことを示すことにした。夜は、その微笑が見えないかもしれないから、無邪気に童謡を口ずさみ、やさしい人間であることを知らせようと努めた。これらは、多少、効果があったような気が・・・
太宰治
「畜犬談」
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・・・甃のところまで来ると、人間が用心して物を見る時のとおり眉根の辺を動かす表情で此方を見て、害心のないのを感じたらしくそこへ坐った。それでもまだ視線は人間から決して離そうとしない。 この犬、どっかから逃げて来たんだって。小さい男の子が、そん・・・
宮本百合子
「犬三態」