・・・僕なぞは学資に窮した時、一日に白米二合で間に合せた事がある」「痩せたろう」と碌さんが気の毒な事を聞く。「そんなに痩せもしなかったがただ虱が湧いたには困った。――君、虱が湧いた事があるかい」「僕はないよ。身分が違わあ」「まあ経・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・なるほど留学生の学資は御話しにならないくらい少ない。倫敦ではなおなお少ない。少ないがこの留学費全体を投じて衣食住の方へ廻せば我輩といえども最少しは楽な生活ができるのさ。それは国にいる時分の体面を保つ事は覚束ないが(国にいれば高等官一等から五・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・その頃は大学卒業の学士に就職難というものはなかったが、選科といえば、あまり顧みられなかったので、学校を出るや否や故郷に帰った。そして十年余も帝都の土を踏まなかった。*1「世代から世代へ、いく世代も。」*2「少くともラテン語は・・・ 西田幾多郎 「明治二十四、五年頃の東京文科大学選科」
・・・唯この上は女子社会の奮発勉強と文明学士の応援とを以て反正の道に進む可きのみ。事は新発明新工夫に非ず。成功の時機正に熟するものなり。一 言葉を慎みて多すべからず。仮にも人を誹り偽を言べからず。人の謗を聞ことあらば心に納て人に伝へ語・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・之を某学士の言葉を仮りていわば、是れ物の意保合の中に見われしものというべき乎。 然るに意気と身といえる意は天下の意にして一二唱歌の私有にはあらず。但唱歌は天下の意を採って之に声の形を付し以て一箇の現象とならしめしまでなり。されば意の未だ・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・その大学士らしい人が、眼鏡をきらっとさせて、こっちを見て話しかけました。「くるみが沢山あったろう。それはまあ、ざっと百二十万年ぐらい前のくるみだよ。ごく新らしい方さ。ここは百二十万年前、第三紀のあとのころは海岸でね、この下からは貝がらも・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・帝大とよばれた時代でも学力と学資があれば、もちろん、士族、平民という戸籍上の差別が入学者の資格を左右するものではなかった。しかし、日本のあらゆる官僚機構と学界のすべての分野に植えこまれている学閥の威力は、帝大法科出身者と日大の法科出身者とを・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・女学校を出て専門学校へ進もうという方々は、いわばまだ少女らしさの多い心の一方で、どんなに現実的に、学資のことを考えたでしょう。日本の中産階級は戦争によって、最も生活の安定を失いました。日本の女子教育はおくれているから、専門学校程度の勉強をす・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・を「大抵は学資の一部にあてている」のだそうである。校長先生の息子さんの経営で軍需インフレで繁栄している工場へ働いて、貰ったいくばくかの金を再び学校で、その阿母さんに払うのだとしたら、それらの可憐な女学生女工の二時間の労働というものの実質は、・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ どんなすいた晩でも、そこでは七八人の楽師が待っている人のために音楽を奏していた。或る晩、それらの楽師たちが第九シムフォニーをやっていた。全く意気込んで、そこにきいている人たちの理解にかかわらず、今晩はこれをやるんだという意気込みかたで・・・ 宮本百合子 「映画」
出典:青空文庫