・・・ 小説家春の家おぼろの当世書生気質第十四回には明治十八九年頃の大学生が矢場女を携えて、本郷駒込の草津温泉に浴せんとする時の光景が記述せられて居る。是亦当時の風俗を窺う一端となるであろう。其文に曰く、「草津とし云へば臭気も名も高き、其本元・・・ 永井荷風 「上野」
・・・私の家へよく若い者が訪ねて参りますがその学生が帰って手紙を寄こす。その中にあなたの家を訪ねた時に思いきって這入ろうかイヤ這入るまいかと暫く躊躇した、なるべくならお留守であればよい、更に逢わぬといってくれれば可いと思ったというような露骨な事が・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・専門学校が第四高等中学校と改まると共に、四高の学生となったのである。四高では私にも将来の専門を決定すべき時期が来た。そして多くの青年が迷う如く私もこの問題に迷うた。特に数学に入るか哲学に入るかは、私には決し難い問題であった。尊敬していた或先・・・ 西田幾多郎 「或教授の退職の辞」
・・・その上僕の風変りな性格が、小学生時代から仲間の子供とちがって居たので、学校では一人だけ除け物にされ、いつも周囲から冷たい敵意で憎まれて居た。学校時代のことを考えると、今でも寒々とした悪感が走るほどである。その頃の生徒や教師に対して、一人一人・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・ 平田は私立学校の教員か、専門校の学生か、また小官員とも見れば見らるる風俗で、黒七子の三つ紋の羽織に、藍縞の節糸織と白ッぽい上田縞の二枚小袖、帯は白縮緬をぐいと緊り加減に巻いている。歳は二十六七にもなろうか。髪はさまで櫛の歯も見えぬが、・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・ また今の学者を見るに、維新以来の官費生徒はこれを別にし、天保年間より、漢学にても洋学にても学問に志して、今日国の用をなす者は、たいがい皆私費をもって私塾に入り、人民の学制によって成業したる者多し。今日においても官学校の生徒と私学校の生・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ 然らばすなわち全国学問の事においても、教育の針路を定めて後進の学生を導き、文を教え芸学を授くる者は、必ず少年の時より身みずから教育を受けて、また他人を教育し、教場実際の経験ある者にして、はじめてその任にあたるべし。すなわち学者をして学・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・この教場の中にありて区々の学校を見れば、如何なる学制あるも、如何なる教則あるも、その教育は、ただわずかに人心の一部分を左右するに足るべしとのことは、必ずしも知識をまちて然る後に知るべき事柄に非ざるなり。 方今、世に教育論者あり。その言に・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・そこに学生たち町の人たちに囲まれて青じろい尖ったあごをしたカムパネルラのお父さんが黒い服を着てまっすぐに立って右手に持った時計をじっと見つめていたのです。 みんなもじっと河を見ていました。誰も一言も物を云う人もありませんでした。ジョバン・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ そして、学生時代だけがものを考える時だという風になってしまいます。 一、けれども、考えるということ、又判断するということを、私たちは、知らず知らずのうちにいつもしているわけです。たとえば、(きょう本を買うにしても三味この頃芝居の切・・・ 宮本百合子 「朝の話」
出典:青空文庫