・・・と渋い声、砂利声、がさつ声、尖り声、いろいろの声で巻き立って頼み立てた。そして人々の頭は木沢の答のあるまでは上げられなかった。丹下はむずむずしきった。無論遊佐の見じろぎの様子一ツで立上るつもりである。「遊佐殿も方々も御手あげられて下・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・ 夜中に見た夢が悪かったのか、男が余りがさつであった為か、私の気分は愈々悪化した。 宮本百合子 「或日」
・・・ 始終落付のない、ここのがさつな騒動が、どこともなく町にも伝わって、往来に落葉などを散らせながら、立派な樹々が運ばれて行くのを見ると、皆互の癖になっている嘘つきから、平気そうな顔はしていても、何かしらが心の底で動く。 ああやって伐る・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・「大略がさつなるをもつて、をごりやすうして、めりやすし」。好運の時には踏んぞりかえるが、不幸に逢うとしおれてしまう。口先では体裁のよいことをいうが、勘定高いゆえに無慈悲である。また見栄坊であって、何をしても他から非難されまいということが先に・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫