・・・それだけに今度はがっかりしました。何も男を拵えるのなら、浪花節語りには限らないものを。あんなに芸事には身を入れていても、根性の卑しさは直らないかと思うと、実際苦々しい気がするのです。………「若槻はまたこうもいうんだ。あの女はこの半年ばか・・・ 芥川竜之介 「一夕話」
・・・お絹は二人に会釈をしながら、手早くコオトを脱ぎ捨てると、がっかりしたように横坐りになった。その間に神山は、彼女の手から受け取った果物の籠をそこへ残して、気忙しそうに茶の間を出て行った。果物の籠には青林檎やバナナが綺麗につやつやと並んでいた。・・・ 芥川竜之介 「お律と子等と」
・・・ がっかりして、「めね……ちょっと……お待ちなさいよ。」 信也氏が口をきく間もなく、「私じゃ術がきかないんだよ。こんな時だ。」 何をする。 風呂敷を解いた。見ると、絵筒である。お妻が蓋を抜きながら、「雪おんなさん・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ そこへ、お誓が手伝いに出向いたと聞いて、がっかりして、峰は白雪、麓は霞だろう、とそのまま夜這星の流れて消えたのが――もう一度いおう――去年の七月の末頃であった。 この、六月――いまに至るまで、それ切り、その消息を知らなかったのであ・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ そのつばめは、ひじょうにがっかりしました。しかたなく、木の葉を船として、これに乗ってゆこうと決心しました。それより海のかなたへ、渡る途はなかったのです。 昼間は、木の葉をくわえて飛んで、夜になると葉を船にして、その上で休みました。・・・ 小川未明 「赤い船とつばめ」
・・・そして、見つからないので、みんなはがっかりとしてしまって、いつしか、どこへかいってしまいました。 あとに、まりは、独り残されていました。しかし、また、子供たちがやってくるにちがいない。そして、見つかったら、いっそうさかんに投げたり、蹴ら・・・ 小川未明 「あるまりの一生」
・・・ と、いかにもがっかりした顔だった。釣られて、「――では、何かうまい話でも……?」 と、きくと、実は砂金の鉱区が売物に出ているという。銀主を見つけて、採取するのもよし、転売しても十倍の値にはなるとの話に、丹造の眼はみるみる光り泪・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ と、がっかりしながら、しかし何か甘い気持が残った。 彼女の姿はやがて見えなくなった。 白崎はやっと窓から首をひっ込めて、そしてひょいと足許を見た途端、「おやッ! このトランクは……?」「あッ、あの娘さんのや」 と、赤井・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・そして今、全然失敗して帰ッて来た、しかしかくまでに人々がわれに優しいこととは思わなかった。 彼は驚いた、兄をはじめ人々のあまりに優しいのに。そして泣いた、ただ何とはなしにうれしく悲しくって。そしてがっかりして急に年を取ッた。そして希望な・・・ 国木田独歩 「河霧」
・・・ かれ男爵、ただ酒を飲み、白眼にして世上を見てばかりいた加藤の御前は、がっかりしてしまった。世上の人はことごとく、彼ら自身の問題に走り、そがために喜憂すること、戦争以前のそれのごとくに立ち返った。けれども、男は喜憂目的物を失った。すなわ・・・ 国木田独歩 「号外」
出典:青空文庫