・・・記念祭の夜応援団の者に撲られたことを機縁として、五月二日、五月三日、五月四日と記念祭あけの三日間、同じ円山公園の桜の木の下で、次々と違った女生徒を接吻してやった。それで心が慰まった。高校生に憧れて簡単にものにされる女たちを内心さげすんでいた・・・ 織田作之助 「雨」
・・・かつ弾き、ある者は四竹でアメリカマーチの調子に浮かれ、ある者は悲壮な声を張り上げてロングサインを歌っている、中にはろれつの回らぬ舌で管を巻いている者もある、それぞれ五人十人とそこここに割拠して勝手に大気焔を吐いていた。 自分の入って来た・・・ 国木田独歩 「遺言」
・・・と中倉先生の気炎少しくあがる。自分が満谷である。「今晩は」と柄にない声を出して、同じく洋服の先生がはいって来て、も一ツの卓に着いて、われわれに黙礼した。これは、すぐ近所の新聞社の二の面の豪傑兼愛嬌者である。けれども連中、だれも黙礼すら返・・・ 国木田独歩 「号外」
・・・ 先生の気焔は益々昂まって、例の昔日譚が出て、今の侯伯子男を片端から罵倒し初めたが、村長は折を見て辞し去った。校長は先生が喋舌り疲ぶれ酔い倒れるまで辛棒して気きえんの的となっていた。帰える時梅子は玄関まで送って出たが校長何となくにこつい・・・ 国木田独歩 「富岡先生」
・・・それのみか、これが機縁となって、翌月二十八日夜に松葉ヶ谷草庵が焼打ちされるという法難となって報いられた。「国主の御用ひなき法師なれば、あやまちたりとも科あらじとや思ひけん、念仏者並びに檀那等、又さるべき人々も同意したりとぞ聞えし、夜中に・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・信仰を求める誠さえ失わないならば、どんなに足を踏みすべらし、過ちを犯し、失意に陥り、貧苦と罪穢とに沈淪しようとも、必ず仏のみ舟の中での出来ごとであって、それらはみな不滅の生命――涅槃に達する真信打発の機縁となり得るのである。その他のものはど・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・すると磯九郎は自分が大手柄でも仕たように威張り散らして、頭を振り立てて種々の事を饒舌り、終に酒に酔って管を巻き大気焔を吐き、挙句には小文吾が辞退して取らぬ謝礼の十貫文を独り合点で受け取って、いささか膂力のあるのを自慢に酔に乗じてその重いのを・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・そこで事相の成不成、機縁の熟不熟は別として一切が成熟するのである。政元の魔法は成就したか否か知らず、永い月日を倦まず怠らずに、今日も如法に本尊を安置し、法壇を厳飾し、先ず一身の垢を去り穢を除かんとして浴室に入った。三業純浄は何の修法にも通有・・・ 幸田露伴 「魔法修行者」
・・・『……なアに、他の奴等は、ありゃ医者じゃねえ、薬売だ、……とても、話せない……』なんて、エライ気焔だ。でも面白い気象の人で、近在へでも行くと、薬代が無けりゃ畠の物でも何でも可いや、葱が出来たら提げて来い位に言うものですから、百姓仲間には受が・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・でに父母の手を離れて、専門教育に入るまでの間、すべてみずから世波と闘わざるを得ない境遇にいて、それから学窓の三四年が思いきった貧書生、学窓を出てからが生活難と世路難という順序であるから、切に人生を想う機縁のない生涯でもない。しかもなおこれら・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
出典:青空文庫