・・・どんな雑誌の編輯後記を見ても、大した気焔なのが、羨ましいとも感じて居る。僕は恥辱を忍んで言うのだけれど、なんの為に雑誌を作るのか実は判らぬのである。単なる売名的のものではなかろうか。それなら止した方がいいのではあるまいか。いつも僕はつらい思・・・ 太宰治 「喝采」
・・・ 彼の気焔を聞きながら、私はひそかにそのような煩悶をしているうちに、突如、彼は、「うわあっ!」というすさまじい叫声を発した。 ぎょっとして、彼を見ると、彼は、「酔って来たあっ!」と喚き、さながら仁王の如く、不動の如く、眼を固・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・そのうちに、これはまあ、私にとって幸福な事であったのか、不幸な事であったのか、私のいま以て疑問としているところでございますが、このようなダメな男でも、詩壇の一隅に乗り出す機縁が生じてまいったのでございます。実に、人の一生は、不思議とでも申す・・・ 太宰治 「男女同権」
・・・の誇張、或いは気焔としか感ぜられない「老大家」だったなら、私は、自分でこれまで一ばんいやなことをしなければならぬ。脅迫ではないのだ。私たちの苦しさが、そこまで来ているのだ。 今月は、それこそ一般概論の、しかもただぷんぷん怒った八ツ当りみ・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・先日、私が久しぶりで阿佐ヶ谷の黄村先生のお宅へお伺いしたら、先生は四人の文科大学生を相手に、気焔を揚げておられた。私もさっそく四人の大学生の間に割込んで、先生の御高説を拝聴したのであるが、このたびの論説はなかなか歯切れがよろしく、山椒魚の講・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・なんという奇縁でしょう。あの人に伺ってみて、そのことをたしかめ、私は、そのときはじめて、あの人に恋をしたみたいに、胸がときめきいたしました。あの銀座の有名な化粧品店の、蔓バラ模様の商標は、あの人が考案したもので、それだけでは無く、あの化粧品・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・いつもの私なら、そんな追放の恥辱など、さらに意に介せず、この友人と共に気焔を挙げるにきまっているのであるが、その夜は、私は自分の奇妙な衣服のために、いじけ切っていたので、ひたすら主人の顔色を伺い、これ、これ、と小声で友人を、たしなめてばかり・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・日本兵のなすに足らざるを言って、虹のごとき気焔を吐いた。その室に、今、垂死の兵士の叫喚が響き渡る。 「苦しい、苦しい、苦しい!」 寂としている。蟋蟀は同じやさしいさびしい調子で鳴いている。満洲の広漠たる野には、遅い月が昇ったと見えて・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・それでさんざんに調べた最後には、つまりいいかげんに、賽でも投げると同じような偶然な機縁によって目的の地をどうにかきめるほかはない。 こういうやり方は言わばアカデミックなオーソドックスなやり方であると言われる。これは多くの人々にとって最も・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・もっともそれにしたところで、広瀬中佐の銅像を見ていたという事が、どういう機縁になってこれが呼び出される手続きになったのか、これに関する筋の立った説明はなかなか簡単でないように思われる。 それはとにかく、私はその待ちおおせて乗った電車の上・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
出典:青空文庫