・・・をかいた頃、作者は自分の見ているソヴェトの現実が、どんなに巨大な機構のうちの小さくて消極的な断片であり、しかも海岸の棒杭にひっかかっている一本の枝とそこについているしぼんだ花のような題材にすぎないかということは理解しなかったのである。 ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第四巻)」
・・・しかし、作家たちが社会機構の中で保守封建なものとたたかいながら、営利資本の圧力に抗しつつ自身とその芸術を新しくし、なおさらに新しい作家と文学とをもりたててゆこうと欲するとき、自分たちの文学活動の自立性を、民主の立場にたって、経済的に政治的に・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・そして、いつかの折に藤村という一つの大きい明治文学の屋台をふわけして、生々しい機構を知りたいという慾望を刺戟されたのであった。 アルゼンチンの国際ペンクラブの大会に藤村氏が出席したからには、能うかぎり進歩的効果のあげられることを、私たち・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・人民の社会生活が戦争犯罪的権力によって破壊された今日、それを癒す道は犯罪的な権力を根本的に人民の生活機構から追放して、健全な精神と能力の人民が自分ら人民のために社会を運営してゆく方法しかない。これは動かせない事実である。それにもかかわらず、・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・『ドイツ年誌』への寄稿をはじめた。カールはこの頃、ボンに住んだり、トリエルのヴェストファーレン家に暮したりして、つぎつぎの家庭的紛争に心を労していたといわれている。が、その内容を知るものはない。 カールとイエニーとが、長い七年間の婚約時・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・ まずカールが、次いでイエニーと二人の子供とがパリに赴いたが、フランス政府はマルクス一家を気候の悪いブルターニュの沼沢地方へ追放することにきめた。一八四九年八月の終りカールはついにロンドンへ渡った。カールは詩人フライリヒラートに書いてい・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・―― 彼の作品のあるものには、現代社会の機構や社会の生産にたずさわる労働大衆の現実について、当時としてもおどろかれる無智と独断が示されている。ローレンスは、自分がその底から生れ出て来た大衆を信頼しないし、このんでいなかった。何をするにも・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・太平洋に面した海岸の巖石が、地質の関係で、亀甲形や菊皿のような形に一面並んでいる、先に南洋の檳榔樹、蘭科植物などが繁茂した小島が在る。その巖の特殊な現象と、その小島に限って南洋植物が生育しているのとが、青島を著名にしているのだが、私共は大し・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・チンダルの『アルプス紀行』はもうおよみになりましたか。お気に入りましたか? 私は写真で涼ましてあげたいと思うのです。この花の匂いは庭の白いくちなし。匂います? 今晩封じこめておいてあしたの朝とり出して送るのですが。 第二信のうち。七・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・の中に、スタインベックのソヴェト紀行をあげていた。社会主義的リアリズムは、労働者階級の勝利と社会主義社会への展望にたっているから、当然労働者階級の文学の創作方法であり、党員作家の創作の方法でありうる。けれども、たとえばスタインベックのダイナ・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
出典:青空文庫