・・・凡そ男女交際の清濁は其気品の如何に関することにして、例えば支那主義の眼を以て見れば、西洋諸国の貴女紳士が共に談じ共に笑い、同所に浴こそせざれ同席同食、物を授受するに手より手にするのみか、其手を握るを以て礼とするが如き、男女別なし、無礼の野民・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・無教育なる下等の暗黒社会なれば尚お恕す可きなれども、苟も上流の貴女紳士に此奇怪談は唯驚く可きのみ。思うに此英語夫婦の者共は、転宅の事を老人に語るも無益なり、到底その意に任せて左右せしむ可き事に非ずとて、夫婦喃々の間に決したることならんなれど・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・る者あるか、または日本人にして外国語を能くし、いかなる日本語にてもその真面目を外国語に写して毫も誤らざる者ありて、君らの談話を一より十に至るまで遺る所なく通弁しまた翻訳して、西洋文明国の中人以上、紳士貴女をしてこれを聴かしめ、またその訳文を・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・このわたしの唇は何日も確り結んでいて高慢らしく黙っていたのだが、今こそは貴女の前に膝を突いて、この顫う唇を開けてわたくしの真心が言って見たい。ああ、何卒母上を呼んでくれい。引き留めてくれい。何故お前は母上の帰って行くのを見ていながら引留めて・・・ 著:ホーフマンスタールフーゴー・フォン 訳:森鴎外 「痴人と死と」
・・・その一層明らかな証拠には、いつも活溌に眼を耀かせ、彼を見るとすぐにも悪戯の種が欲しいと云うような顔をする彼女が、今朝は妙に大人びて、逆に彼を労り、母親ぶり「貴女に判らないこともあるのですよ」と云いたげな口つきをしているではないか。 彼が・・・ 宮本百合子 「或る日」
・・・「あなた、随分此処は暖いのね……だけれど貴女お一人? 芳子さんはどうなすったの」「芳子さん? あっちだわ」「何故貴女一人放って行らしったんでしょう、……私あの方は……此は貴女だけに云うのよ政子さん……余り親切じゃあないと思うこと・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・ ――「貴女はまるで開いた窓のように私をひきつける!」或るときは、大切そうに彼女の手をとって「比類なき者!」とか「素晴らしい者」とか感歎詞を連発する。インガは、もう何十度か、そういうことはやめて呉れと云わなければならなかった。 インガは・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・其にしても、総ての感情、理智の燃焼を透し、到る所に貴女のろうたきいきどおりとでも云うべきものが感じられるのは、非常に私の感興をそそりました。 きっと貴女の持っていらっしゃる詩興、詩趣によるものでしょう。結婚と云うものに対し、愛の発育と云・・・ 宮本百合子 「大橋房子様へ」
・・・隣家の小母さんであるならば、鬼女もその娘に手をのばしはしなかったろう。母子関係の常套には新しい窓がひらかれる必要がある。 被害者 犯罪に顛落する復員軍人が多いことについて、復員省は上奏文を出し「聖上深く御憂慮」・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・失業中なのです、と云ったら○○○さんが「失業と書きなさいよ。貴女がわるいんじゃあるまいし」と云うので、失業と書きました。さっき紙をわけた巡査がその紙をうけとって書いてあることをよんでから、「一寸立って下さい」と云い、立つと袂をいじったり、帯・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
出典:青空文庫