・・・ 交通規則や国際間の盟約が履行されている間はまだまだ安心であろうが、そういうものが頼みにならない日がいつなんどき来るかもしれない。その日が来るとこれらの機械的鳥獣の自由な活動が始まるであろう。「太平洋爆撃隊」という映画がたいへんな人・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・ 交通規則や国際間の盟約が履行されている間はまだまだ安心であろうが、そういうものが頼みにならない日がいつ何時来るかもしれない。その日が来るとこれらの機械的鳥獣の自由な活動が始まるであろう。「太平洋爆撃隊」という映画が大変な人気を呼ん・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・窮屈さと蒸された人の気息とで苦しくなった。上野へ着くのを待ち兼ねて下りる。山内へ向かう人数につれてぶらぶら歩く。西洋人を乗せた自動車がけたたましく馳け抜ける向うから紙細工の菊を帽子に挿した手代らしい二、三人連れの自転車が来る。手に手に紅葉の・・・ 寺田寅彦 「障子の落書」
・・・という小品の中に、港内に碇泊している船の帆柱に青い火が灯っているという意味のことを書いてあるのに対して、船舶の燈火に関する取締規則を詳しく調べた結果、本文のごとき場合は有り得ないという結論に達したから訂正したらいいだろうと云ってよこした人が・・・ 寺田寅彦 「随筆難」
・・・それからまもなくある日縁側で倒れて気息の絶え絶えになっているのを発見して水やまたたびを飲ませたら一時は回復した。しかしそれから二三日とたたないある朝、庭の青草の上に長く冷たくなっているのを子供が見つけて来て報告した。その日自分は感冒で発熱し・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・それで×××の△△連隊から河までが十八町、そこから河向一里のあいだのお見送りが、隊の規則になっておるんでござえんして、士官さんが十八人おつき下さる。これが本葬で、香奠は孰にしても公に下るのが十五円と、恁云う規則なんでござえんして…… そ・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・別に恥ずかしと云う気色も見えぬ。五分刈は向き直って「あの声は胸がすくよだが、惚れたら胸は痞えるだろ。惚れぬ事。惚れぬ事……。どうも脚気らしい」と拇指で向脛へ力穴をあけて見る。「九仞の上に一簣を加える。加えぬと足らぬ、加えると危うい。思う人に・・・ 夏目漱石 「一夜」
・・・と落ち付かぬ眼を長き睫の裏に隠してランスロットの気色を窺う。七十五度の闘技に、馬の脊を滑るは無論、鐙さえはずせる事なき勇士も、この夢を奇しとのみは思わず。快からぬ眉根は自ら逼りて、結べる口の奥には歯さえ喰い締ばるならん。「さらば行こう。・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・人によっては寝食の時間など大変規則正しい人もあるかも知れないが、原則から云えば楽に自由な骨休めをしたいと願いまたできるだけその呑気主義を実行するのが一般の習慣であります。すると彼らには明かに背馳した両面の生活がある事になる。業務についた自分・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・ それから、イミテーションは外圧的の法則であり、規則であるという点から、唯打ち毀して宜いというものではない。必要がなくなれば自然に毀れる。唯、利益、存在の意義の軽重によって、それが予期したより十年前に自ら倒れるか、十年後に倒れるかである・・・ 夏目漱石 「模倣と独立」
出典:青空文庫