・・・先客の恰好が、どうもなんだか奇態に見えたからである。ずいぶん痩せ細っているようであったけれども身丈は尋常であったし、着ている背広服も黒サアジのふつうのものであったが、そのうえに羽織っている外套がだいいち怪しかった。なんという型のものであるか・・・ 太宰治 「ダス・ゲマイネ」
・・・引返して村へ駈けこんで、安兵衛という人にたのみ、奇態なものを見つけたゆえ、参り呉れるよう、村中へ触れさせた。 こうしてシロオテは、ヤアパンニアの土を踏むか踏まぬかのうちに、その変装を見破られ、島の役人に捕えられた。ロオマンで三年のと・・・ 太宰治 「地球図」
・・・民衆は奇態に、その洋行というものに、おびえるくらい関心を持つ。 田舎者の上京ということに就いて考えて見よう。二十年前に、上野の何とか博覧会を見て、広小路の牛のすき焼きを食べたと言うだけでも、田舎に帰れば、その身に相当の箔がついているもの・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・おまえは、稀代の不信の人間、まさしく王の思う壺だぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身萎えて、もはや芋虫ほどにも前進かなわぬ。路傍の草原にごろりと寝ころがった。身体疲労すれば、精神も共にやられる。もう、どうでもいいという、勇者に不似合いな不貞腐・・・ 太宰治 「走れメロス」
・・・官展に油画を搬入し、三十年続けて落選し、しかもその官展に反旗をひるがえす程の意気もなく、鞠躬如として審査の諸先生に松蕈などを贈るとかの噂も有之、その甲斐もなく三十年連続の落選という何の取りどころも無き奇態の人物に御座候えども、父祖伝来のかな・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・数枝に、無理矢理、劇場から引っぱり出され、そうして数枝の悪意ない、ちょっとした巫山戯た思いつきが、高須をここへ連れこんだ、この薄暗いバアは、乙彦と、さちよが、奇態な邂逅したところ、いま自分の腰かけているこの灰色のソファは、乙彦が追いつめられ・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・よごれて、かび臭く、それに奇態に派手な模様のものばかりで、とても、まともな人間の遺品とは思われないしろものばかりである。私は風呂敷包を、ほどきながら、さかんに自嘲した。「デカダンだよ。屑屋に売ってしまっても、いいんだけどもね。」「も・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・佐藤、葛西、両氏に於いては、自由などというよりは、稀代のすねものとでも言ったほうが、よりよく自由という意味を言い得て妙なふうである。ダス・ゲマイネは、菊池寛である。しかも、ウール・シュタンドにせよ、ダス・ゲマイネにせよ、その優劣をいますぐこ・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・そうしてもラテン文法の練習などではめったに出逢わないような印象と理解を期待する事が出来るだろう。」「ついでながら近頃やっと試験的に学校で行われ出した教授の手段で、もっと拡張を奨励したいのがある。それは教育用の活動フィルムである。活動写真・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・そうして、子供を連れて乗ったおとなもつい子供のような気持になる、といったような奇態な電車である。柱の白樺の皮がはがれた所を同じ皮で繕って、その上に巻いたテープには「白樺の皮をだいじにしてください」と書いてある。なるほど、だれでもちょっとはが・・・ 寺田寅彦 「軽井沢」
出典:青空文庫