・・・ 正面の階段の上り口の左側に商品切手を売る所がある。ここはいつでも人が込み合っていて数百円のを持って行く人もあれば数十円のを数十枚買って行く人もある。そうかと思うと一円のを一枚いばって買って行く人もある。ともかくもここには人間の好意が不・・・ 寺田寅彦 「丸善と三越」
・・・そして桃いろの封筒へ入れて、岩手郡西根山、山男殿と上書きをして、三銭の切手をはって、スポンと郵便函へ投げ込みました。「ふん。こうさえしてしまえば、あとはむこうへ届こうが届くまいが、郵便屋の責任だ。」と先生はつぶやきました。 あっはっ・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・その小包には切手が沢山はってあった。 十月二十九日。 昨夜スウェルドロフスキー時間の午前一時頃ノヴォシビリスクへ。モスクワでウラジヴォストクまでの切符を買う時ノヴォシビリスクで途中下車をするようにしようかとまで思ったところだ。新・・・ 宮本百合子 「新しきシベリアを横切る」
・・・は、三十年もアメリカに移民労働者として辛苦の生活をしている動物と子供のすきな日本人中野が、市場で亀をひろって育てたことから亀のチャーリーとあだ名され、アメリカの子供の人気を博しつつ、日本の切手や菓子その他を宣伝用具として子供らを教育し、ピオ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 六日 買物、電報を打つ切手をたのむ。 青木さんの来た日曜。 此日に岩本、森田氏と来て、自分に日記をくれる。 十八日 立つ。夜 ワシントンで一時間とまったのでうちへ葉書を書く。 ・・・ 宮本百合子 「「黄銅時代」創作メモ」
・・・十二銭の切手を貼ったのを御覧になりましたか? すると私は一つ自分の番号をとばしてしまったのかしら。或は今のが第八信に当るのかしら。とにかくこの頃はウンウンでね。偉大な価値の評価が正当にされるようにされないということ、それが私の努力の動因です・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 栗林さんの支払いは受取りがあって、こちらで少し余分に払ったものだから、お釣りを切手で寄越してくれました。 富雄さんへの本は新書を三四冊みつけます。新しいのは中々手に入りませんから、手許にあるのを。大抵『アラビアのロレンス』『今日の・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そこでは、切手も売るのであった。札のかかっている横を入って菊畑へ行ってみたらば、そこの棚にのって飾られているのはどれも懸崖であった。綺麗にちがいないのだけれど、竹を添えられ、強いてもためられている花の姿は窮屈である。あたり前に咲いているのは・・・ 宮本百合子 「この初冬」
・・・ 六月或日 Y机の前で旅券下附願につける保証書の印を加茂へもらいに送るその用の手紙書きつつ「ねえべこちゃん、これ切手はらないでいいんだろうか――印紙を」「ハハハハもやでもそういう感違いするのね ハハハハ愉快愉・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・李茂は、家の内にいて、切手や紙のよりわけが上手になって行った。 けれども二人の男と一人の女とが、一つの上に寝るのは、どうもあまり便利ではなかった。二人の男の間に、微妙な不安があった。二人は、春桃をゆずり合い、幾度も字のかける向高は「赤い・・・ 宮本百合子 「春桃」
出典:青空文庫