・・・「きまりきった」「一人の文学者としてではなく、いわば組合の指導者でも云いそうな正論」「軌道的な文学論」に轢殺されていると、平野氏は語っているのである。わたしが党員である作家として例外の特権をたのしんでいて、作品をかくために役員をやめたり会合・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・この発言の本質は、先程の作家と人民層とのより緊密なむすびつきを求めていることだと思いますが、発言の中にもあったように、サークルその他へ作家がもっとまめに出席するような機動性が求められていることでもあります。もう一歩深めてこの問題を考えると、・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・ 停車場前の広場から大通りに出ると、電車の軌道が幌から見える。香港、上海航路廻漕業の招牌が見える。橋を渡る。その間に、電車が一台すれ違って通った。人通りの稀な街路の、右手は波止場の海水がたぷたぷよせている低い石垣、左側には、鉄柵と植込み・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 母と私との生活が別々な軌道を持つようになってからは、母の文学的興味も一時下火となった。そのかわりに日本画の稽古がはじめられた。 その時分になれば、家の経済状態も少しはましになって来ていたのであったろう。私がたまに遊びに行くと、母は・・・ 宮本百合子 「母」
・・・ 一人の文学を愛する労働者が、いつもより本質的に人生の波を感じとる人として、またそれを再現する人として自分を分裂させずにあらゆる場面を生きとおしてゆくということ、そのように機動的な文学性をきたえてゆくということ、これが人民の文学の新しい・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・マの進展のモメントとなる各細部を、印象的に整理してゆく方法だけに頼らず、もっと深く本質にふれて、占領地域におけるナチス軍の窮極における敗退の生活的・心理的な理由を、政治的にしっかり把握した上で、政治的機動性とでもいうようなダイナミックな力で・・・ 宮本百合子 「よもの眺め」
・・・種子島へ来た鉄砲をどっさり買い込んで、自分の歩兵を武装させ機動的な戦争の方法を組織したのは信長であった。信長が、分裂していた支配権力を一応自分に集中することが出来たのは、彼の賢によってであった。彼がポルトガルから渡来した近代武器の威力を理解・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・こは車のゆきき漸く繁くなりていたみたるならん。軌道の二重になりたる処にて、向いよりの車を待合わすこと二度。この間長きときは三十分もあらん。あたりの茶店より茶菓子などもて来れど、飲食わむとする人なし。下りになりてより霧深く、背後より吹く風寒く・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・この車の軌道を横たわるに会えば、電車の車掌といえども、車をとめて、忍んでその過ぐるを待たざることを得ない。 そしてこの車は一の空車に過ぎぬのである。 わたくしはこの空車の行くにあうごとに、目迎えてこれを送ることを禁じ得ない。わたくし・・・ 森鴎外 「空車」
出典:青空文庫