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・・・聞えないのです。急湍は叫喚し怒号し、白く沸々と煮えたぎって跳奔している始末なので、よほどの大声でなければ、何を言っても聞えないのです。私は、よほどの大声で、「毎日たいへんですね!」と絶叫しました。けれども、やっぱり奔湍の叫喚にもみくちゃにさ・・・
太宰治
「風の便り」
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・・・竹樹茂りて水見えねど、急湍の響は絶えず耳に入る。水桶にひしゃく添えて、縁側に置きたるも興あり。室の中央に炉あり、火をおこして煮焚す。されど熱しとも覚えず。食は野菜のみ、魚とては此辺の渓川にて捕らるるいわなというものの外、なにもなし。飯のそえ・・・
森鴎外
「みちの記」