・・・夜になると間もなく、板倉佐渡守から急な使があって、早速来るようにと云う沙汰が、凶兆のように彼を脅したからである。夜陰に及んで、突然召しを受ける。――そう云う事は、林右衛門の代から、まだ一度も聞いた事がない。しかも今日は、初めて修理が登城をし・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・ だから、私は小説家というものが嘘つきであるということを、必要以上に強調したくないが、例えば私が太宰治や坂口安吾とルパンで別れて宿舎に帰り、この雑誌のN氏という外柔内剛の編輯者の「朝までに書かせてみせる」という眼におそれを成して、可能性・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・人の道、天の理、心の自律――近くは人間学的倫理学の強調するような「世の中の道」にまでひろがるところの一般の倫理的なるものへの関心と心得とはカルチュアの中心題目といわねばならぬ。人生の事象をよろず善悪のひろがりから眺める態度、これこそ人格とい・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・それ以外の社会改良、労資協調的温情はかえって、理想社会の到達を遅らすのみである。エンゲルスはマルクスと、半世を献身的友情をもって共産主義宣伝のために働いた。『弁証法と自然』において、唯物弁証法を発展させ、『英国における労働階級の境遇』におい・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・そしてそれこそ日蓮の強調したところのものである。日本の知識層は実は文化に冷淡なのではなく、民族的文化、国家的思潮に冷淡なのである。そしてこのことたる全く従来の文化的指導者の認識のあやまりに由るのである。 日本の文化的指導者は祖国への冷淡・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・こゝでは、戦争に対する嫌悪、恐怖、軍隊生活が個人を束縛し、ひどく残酷なものである、というようなことが、強調されている。家庭での、平和な生活はのぞましいものである。戦場は、「一兵卒」の場合では、大なる牢獄である。人間は、一度そこへ這入ると、い・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・ それには、たしかに、新しい感覚があった。協調ではないのである。独裁である。相手を例外なくたたきつけるのである。金持は皆わるい。貴族は皆わるい。金の無い一賤民だけが正しい。私は武装蜂起に賛成した。ギロチンの無い革命は意味が無い。 し・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・それだから女形の男優は、女というものの特徴を若干だけ抽象し、そうしてそれだけを強調して表現する。無生の人形はさらにいっそう人間の女になれるはずがない。それだからさらにいっそうこれらの特徴を強調する。その不自然な強調によって「個々の女」は消失・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・ モンタージュという言葉を抽出し、その意義を自覚的に強調したのはプドーフキン一派の人に始まるかもしれないのであるが、要するにモンタージュは平凡な「編集」という言葉をもって代用してもたいしてさしつかえないという事はプドーフキンの著書の英訳・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・そうして日本の俳諧や短歌の中にモンタージュ芸術の多分な要素の含まれていることを強調しているそうである。 エイゼンシュテインがいかなる程度にわが国の俳諧を理解してこう言っているかはわかりかねるが、日本人の目から見ても最もすぐれたモンタージ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
出典:青空文庫