・・・そうして私はまたこの夢の心理なるものがはなはだしく連句の心理に共有なる諸点を備えていることを発見して驚かなければならないのである。 フロイドの考えでは顕在的な「夢内容」の底には潜在的な「夢思想」なるものが流動している。前者の表面的な並列・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・今の世に云う写生文家というものの文章はいかなる事をかいても皆共有の点を有して、他人のそれとは截然と区別のできるような特色を帯びている。するとこれらの団体はその特色の共有なる点において、同じ立場に根拠地を構えていると云うてよろしい。もう一遍大・・・ 夏目漱石 「写生文」
・・・子の寄って出来上った善悪とか邪正とかいう問題になると、少々込み入った解剖の力を借りなければ何とも申されませんが、そうした問題の関係して来ない場合もしくは関係しても面倒でない場合には、自分が他から自由を享有している限り、他にも同程度の自由を与・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・ けれ共有難い事には、此の一二年同じ動くにしても、或る一点の支点だけは不動に確立して居る事を信じられる様になったのは嬉しい。 只それ丈で、どんなに動かされても堪えられ幾分ずつなりとも育てられては行きますけれどまだまだ私の心は若すぎる・・・ 宮本百合子 「動かされないと云う事」
・・・ 認識の範囲の狭さ、個性の独自性の乏しさ、妥協的で easy-going であると云うような忠言は、批評の一種の共有性であろう。 或る人は、そんな事はあるものか、男の人は負け惜みが強いからそんな事を云い度いのだと、云うかもしれない。・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・そういう農場では、生産、利潤の分配すべてを共有に、共産主義的にやって行く農場経営の形だ。 そのコンムーナに小学校がある。数本の白樺と檜の樹にかこまれた丸太づくりの小さい学校だ。が、そこに一人の精力的な教師が働いている。一九一七年までその・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・集団農場へ入ると、赤坊もやっぱり牛みたいに共有されるって本当かね?」 ドッと云う満場の笑い。「なおいいじゃねえか!」と云う声がした。又それで笑う。 ――ソラ! 諸君はそうやって笑う。だがそれは一部に今なお信ずべからざる事実としてある・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・を持ち得る丈の教育と健康とを享有して居るのでございます。が今度の戦乱に際して、婦人の活動が男子同等の能権を持ち得る事を示したのは、皆此点に*して居ります。良人を送り、同胞を送った女性に、今まで持たなかった力が奇蹟的に湧いたのでない事を私共は・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・、第一節において、ジイドは、心を傾けてソヴェトに開花している日常生活の幸福そうな明るさ、行き届いた文化的施設、どこの国においてよりも深く強くヒューマニティーを感じさせる人間と人間との接触、共感、民衆が享有している非常に長い青年期の高い価値と・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・文化・文学が人民の社会生活の共有財であり、その創造は一つの文化生産部面であるというしっかりした認識こそ、人民の民主生活の実際の足がかり、ファクターではないでしょうか。文化を人民の当然の共有財と理解してその民主的効用を求めないなら、いますべて・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
出典:青空文庫