・・・どうかして気をまぎらせたいと僧を呼んでお経をよませたり自分でよんだりして居られたけれ共有難い御経の文句も若君の心はなぐさめる事が出来なかった。さっきまでお経をよんで居た声がパッタリ止んでから今までよっぽど立つけれ共身じろぎする様子さえもない・・・ 宮本百合子 「錦木」
・・・を生んだものと、そのものとは如何なる内的関係を共有しているのでございましょう。これが如何なるものによって解決され進展し、拡大され、完成に到るかということ、これこそ最後のもので、私が饒舌をおさめ、謹んで貴女の踏まれる一歩一歩を理解して行こうと・・・ 宮本百合子 「野上彌生子様へ」
・・・と同時に、一般が、彼等生存の理想、倫理感等によって認めた肯定の範囲に於ては、一人一人が、各々の負うべき責任と義務とを確信しての自由、独立を共有する。家庭生活というものが部族に隷属した時代が去り、一人一人の希望、趣向、責任によって経営されるよ・・・ 宮本百合子 「深く静に各自の路を見出せ」
・・・日本の石器時代の氏族社会は、まだ総ての生産手段とその収穫とを共有していた時代で、氏族の中では男も女も平等の権利を持っていた。つまり男も女も等しい選挙権と被選挙権とを持っていたし、女の酋長というものも、文献の中に多勢現われている。この時代は母・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・例えば原敬のごときに対しては奸獰邪智の梟雄として心から憎悪を抱いていた。原敬の眼中にはただ自党の利益のみがあって国家がない。ところで彼の政党は私利をのみ目ざす人間の集団であって、自党の利益とは結局党員各自の私利である。彼らはこの集団の力によ・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫