・・・モーターの早い規律正しい廻転から起る音の中にはかなり純粋な楽音がいくつかある。しかし電車の中で歌いたくなる人はあまりなさそうである。たとえ取締規則がこれを許しても、また二、三の変り者が実例を示して鼓吹したにしてもあまり流行はしそうもない、し・・・ 寺田寅彦 「電車と風呂」
・・・この考えを更に押し拡め直接筋力と比較する事の出来ぬ種々の引力斥力を考えて森羅万象を整然たる規律の下に整理するのが物理学の主な仕事の一つである。 力の考えから仕事の考えが導かれる。力の作用せる物が動けば力はその物に対して仕事をし、また仕事・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・と号令をすると生徒一同起立して恭しくお辞儀をする。そんな事からが妙に厭であった。そして自分にも碌に分らないような事をいい加減に教えていると、次第々々に自分が墮落して行くような気がすると云っていたが、一年ばかりでとうとう止してしまった。そうし・・・ 寺田寅彦 「まじょりか皿」
・・・裏十二の中に月と花が一つずつあってこの一楽章に複雑な美しさを与える一方ではまたあまりに放恣な運動をしないような規律を制定している。月が七句目のへんに来ているのは、表の月に照応してもう一度同じテーマを繰り返すことによって表の気分を継承した形で・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・要するに不規律のやり方ではあるが、どうも自分の性質として、窮屈に勉強するより、楽に自分の気に入ったようにするほうが、心がゆったりして記憶する上にもよかった。だがこんな事は決して、自分ながらも結構な事とは思っていぬのだから、読者諸君においても・・・ 寺田寅彦 「わが中学時代の勉強法」
・・・そうして彼らの間に規律と云うものが無かったならば、――彼らのうちには今日は頭が痛いから休むというものもできようし、朝の七時からは厭だからおれは午後から出るとわがままを云うものもできようし、あるいは今日は少し早く切り上げて寄席へ行くとか、ある・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・――二つのものの性質を概括していうと、あなた方の方は規律で行き、私どもの方は不規律で行く。その代り報酬は極悪い。金持になる人、なりたい人は、規律に服従せねばならない。あなた方の方は mechanical science の応用で、私どもの方・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・先生は無論授業をする資格のない人です。叱る代りには骨を折って教えてくれるにきまっています。叱る権利をもつ先生はすなわち教える義務をももっているはずなのですから。先生は規律をただすため、秩序を保つために与えられた権利を十分に使うでしょう。その・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・だが日本の兵士たちは、もっと勇敢で規律正しく、現実的な戦意に燃えていた。彼らは銃剣で敵を突き刺し、その辮髪をつかんで樹に巻きつけ、高粱畠の薄暮の空に、捕虜になった支那人の幻想を野曝しにした。殺される支那人たちは、笛のような悲声をあげて、いつ・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・ 小学の科を五等に分ち、吟味を経て等に登り、五等の科を終る者は中学校に入るの法なれども、学校の起立いまだ久しからざれば、中学に入る者も多からず。ただし俊秀の子女は、いまだ五科を経ざるも中学に入れ、官費をもって教うるを法とす。目今この類の・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
出典:青空文庫