・・・ そんな風に扱われては、支店長たちも自然自滅のほかはないと、切羽つまった抗議の手紙を殆んど連日書き送ったが、さらに効目はない。やっと返事が来たかと思うと、請求したくば、売り上げをもっと挙げてからにしろという文面だ。 そして、いきなり・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・という弱々しい未練いっぱいの訴えとなって終わってしまうほかないので、それも考えてみれば未練とは言ってもやはり夜中なにか起こったときには相手をはっと気づかせることの役には立つという切羽つまった下心もは入っているにはちがいなく、そうすることによ・・・ 梶井基次郎 「のんきな患者」
・・・男と女が、コオヒイと称する豆の煮出汁に砂糖をぶち込んだものやら、オレンジなんとかいう黄色い水に蜜柑の皮の切端を浮べた薄汚いものを、やたらにがぶがぶ飲んで、かわり番こに、お小用に立つなんて、そんな恋愛の場面はすべて浅墓というべきです。先日、私・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・高い建物、広告塔、アンテナ、其等の錯綜した線に切断され、三角の空、ゆがんだ六角の空、悲しい布の切端のような空がある。 屋根と屋根との狭いすき間からマリが落ちたような月の見える細長い夜の空、郊外の空にない美があるのを感じる。〔一九二六・・・ 宮本百合子 「空の美」
・・・木の枝の切端は専門家がそれについて数頁の説明を費すであろう現在のゴルフの打杖に迄進化した。球を小さくして青羅紗の上へ転して見る。大きい円い奴をふっ飛ばして一つの跳躍する球が人体集団をいかに制約するか、金を儲けて見物する。しゃれたチョッキで見・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫