・・・は前にいえるごとく、氏の尽力を以て穏に旧政府を解き、由て以て殺人散財の禍を免かれたるその功は奇にして大なりといえども、一方より観察を下すときは、敵味方相対して未だ兵を交えず、早く自から勝算なきを悟りて謹慎するがごとき、表面には官軍に向て云々・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・絵も描き、文章に達し、音楽も愛し、しかも音楽の演奏ぶりなどにはなかなか近親者に忘れがたい好感を与えるユーモアがあふれていたようである。日本の明治以来の興隆期の文化は、夏目漱石でその頂点に達し同時に漱石の芸術には、今日の日本を予想せしめる顕著・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・そこに近親感もある。日本の伝統的な皇族への感情の習慣は、ナンセンスそのものを通じて、偶像を否定しきっていない心理を温存させてゆく。笑いや優越感をとおって屈従に近づけられてゆくのである。 ヴァイニング夫人の「皇太子の教育」と題される文章が・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・私たちに近親な作家として、たとえばフールマノフやファデーエフ等の作家たちは、彼の「赤色親衛隊」や「叛乱」の政治的・文学的意味を自覚して創作したであろうし、ファデーエフの「壊滅」は偶然の作品ではなかった。単にゲリラに参加した若者の手記ではなか・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ 人間になったものとしての日本の主権者一家に、みんなのもつ暖い感情があるとすれば、それは、決して頼りになる存在としての、しっかりした男同士の近親感ではない。日本の人民が戦争に「使用」されることをことわるような重大なときに、相談のあいてに・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・従弟の歓迎の意味で近親の者が集って晩餐を食べた時、私は帰ってから始めて祖母に会った。子供のように、赤いつやつやした両頬で、楽しそうにはしていたが、二三ヵ月前に比べると、ぐっと老耄したように見えた。弱々しいあどけなさめいたものが、体の運び方に・・・ 宮本百合子 「祖母のために」
・・・ 先頃帝国芸術院が出来、顔ぶれがきまった時、その一員となった或る文学者の近親が、勅任官待遇で野たれ死にしたら面白いことだね、という意味をいったそうである。そういう一言はピンと誰の胸にも来る。そういう現実の中では読者の興味も極めて具体的な・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・「女は常に心遣いしてその身を堅く謹慎すべし朝早く起き夜は遅く寝ね昼は寝ずして家の内のことに心を用い云々」当時の男としてのこういう要求においても益軒は女のための養生訓の必要ということに思い及ぼうともしていない。女が子を持てなければ去るべし・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・ 側には本多正純を始めとして、十余人の近臣がいた。案内して来た宗もまだ残っていた。しかし意味ありげな大御所のことばを聞いて、皆しばらくことばを出さずにいた。ややあって宗が危ぶみながら口を開いた。「三人目は喬僉知と申しまするもので」・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
出典:青空文庫