・・・電気技師になるとのお話で、もう二年経てば、私はこのお友達のところへお嫁にまいります。夜に大学へ行き、朝には京王線の新築された小さい停車場の、助役さんの肩書で、べんとう持って出掛けます。この助役さんは貴方へ一週間にいちどずつ、親兄弟にも言わぬ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ぼくが帰国したとき、前年義姉を失った兄は、家に帰り、コンムニュスト、党資金局の一員でした。あにを熱愛していたぼくは、マルキシズムの理論的影響失せなかったぼくは、直に共鳴して、鎌倉の別荘を売ったぼくの学費を盗みだして兄に渡し、自分も学内にR・・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・もうひとりのお方は、父の会社に勤めて居られる、三十歳ちかくの技師でした。五年も前の事ですから、記憶もはっきり致しませんが、なんでも、大きい家の総領で、人物も、しっかりしているとやら聞きました。父のお気に入りらしく、父も母も、それは熱心に、支・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・映写室から発火したという話でした。そうして、映画見物の小学生が十人ほど焼死しました。映写技師が罪に問われました。過失傷害致死とかいう罪名でした。子供にも、どういうわけだか、その技師の罪名と運命を忘れる事が出来ませんでした。旭座という名前が「・・・ 太宰治 「五所川原」
・・・菊子さんもご存じでしょうが、私の前歯が一枚だけ義歯で取りはずし出来るので、私は電車の中でそれをそっと取りはずして、わざと醜い顔に作りました。戸田さんは、たしか歯がぼろぼろに欠けている筈ですから、戸田さんに恥をかかせないように、安心させるよう・・・ 太宰治 「恥」
・・・われら破れかぶれの討入の義士たちは、顔を見合せて、苦笑した。 僕はわざと大声で、「鶴田君! 君は、ふだんからどうも、酒も何も飲まず、まじめ過ぎるよ。今夜は、ひとつ飲んでみたまえ。これもまた人生修行の一つだ。」などと、大酒飲みの君に向・・・ 太宰治 「未帰還の友に」
・・・ある時彼の伯父に当る人で、工業技師をしているヤーコブ・アインシュタインに、代数学とは一体どんなものかと質問した事があった。その時に伯父さんが「代数というのは、あれは不精もののずるい計算術である。知らない答をXと名づけて、そしてそれを知ってい・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・換言すれば、蠅はわれわれの五体をワクチン製造所として奉職する技師技手の亜類であるかもしれないのである。 これはもちろん空想である。しかしもし蠅を絶滅するというのなら、その前に自分のこの空想の誤謬を実証的に確かめた上にしてもらいたいと思う・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・観客は亮の兄弟と自分らを合わせて四五人ぐらいはあったが、映画技師、説明者が同時に映画製造者を兼ねるのみならず、肝心のガラス板がやっと二枚ぐらいしか掛け替えがないのだから亮の骨折りは一通りでなかったろうと思われる。後には自分の父に頼んでもう少・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・とった写真を現像したら思いもかけぬ飛行機の氷の上に横たわる姿が現われたので、これはきっと先年行くえ不明になった有名な老探検家の最後を物語るものだろうという事になったが、よくよく調べてみると、これは写真技師がうっかり一枚のフィルムに二度写しを・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
出典:青空文庫